Book Lounge
2019.9.26

#001 宇宙船地球号 操縦マニュアル
バックミンスター・フラー(著)、芹沢 高志(訳)

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人との出会いが本との出会いにつながることがある。

本書と出会うきっかけをくれたのは、丸井グループのサステナビリティ アドバイザーであるピーターD. ピーダーセンさんだ。
ピーターさんとお話しする中で、何度か本書の著者であるバックミンスター・フラーの名前が挙がった。
ピーターさんはあまり気に留めていなかったようだが、僕には気になった。

バックミンスター・フラーの名前を初めて耳にしたのは、80年代後半のバブル経済のころだったと思う。バブルというと金ピカの時代が連想されるが、おもしろいことに、環境問題や、今でいうサステナビリティの機運が高まった時期でもあった。カネ、土地、株の狂乱経済の中で『宇宙船地球号 操縦マニュアル』はちょっとしたブームになった。「宇宙船地球号」というわかりやすいキーワードが、環境問題の代名詞として流行した。
(当時はブランドやジュリアナやシーマだけでなく、何でもかんでも「流行」の対象になったのだ)
当時の僕は、「宇宙船地球号」というキーワードはあまり好きではなかった。何だか子供っぽく聞こえたし、人間も含めて生態系であり生命体でもある地球を宇宙船に喩えるなんてセンスがないと思った。ただ、バックミンスター・フラーという名前はそれ以来ずっと気になっていた。
(僕はかっこいい名前に弱いのだ。ウィトゲンシュタインとか露伴とか...)

バブル崩壊から30年近くが経とうとしている。そんなある日、バックミンスター・フラーの名前がピーターさんの口をついて出た。何かのご縁だと思って、『宇宙船地球号』を読んでみた。予想に反して、おもしろくて一気に読んでしまった。タイトルから想像される内容とまったく異なる、というか、はっきり言って、話題があっちからこっちへと次々に移動するので、いわゆる起承転結が明瞭でなく、したがって、何が書いてあったか要約してみよ、と言われても途方に暮れてしまうような本なのだ。
(その意味では、本書を難解だと感じる人もいるだろう)
それでも、次から次へと繰り出されるアイデアや概念、イメージなどがあまりにもドキッとしたり、ハッとするものなので、思わずフラー・ワールドに引き込まれてしまう。僕が一番ハッとしたのは、次の一節だ。

「富とは、私たちが人間のために準備できた未来の日数のことである。」

フラー先生(ここから先は「先生」と呼ばせていただきます)は、「富」の概念をガラリとひっくり返してみせる。富とは、お金でも土地でもベンツでもなく、私たちが子どもたちや将来世代のために準備できる「未来の日数」である、というのだ。何と力強く、何と正確で真実な定義だろう!ただただ、驚嘆するしかない。

僕は、これまで環境問題については、強く共感しながらも、どこか腑に落ちないところがあった。よく「地球に優しい」とか「環境を保全する」などという言い方をするが、私たち人間は本当に地球に優しくしたり、環境を保護したりできるのだろうか。地球や自然環境はそもそも人間に守ってもらおうとしているのだろうか。ビジネスの文脈でいうと、地球環境は私たち企業にとって、お客さまや株主や社員と同じようにステークホルダーと呼べるのだろうか、という疑問である。そうしたモヤモヤ、疑問が「未来の日数」の一節に出会ったことで、一瞬で解消された。環境問題についてのステークホルダーは、将来世代だったのだ。このことに関するヒントは、実は、ピーターさんがすでに与えてくれていた。ピーターさんは私たちに

「企業は『世代間をつなぐビジネス』をしなければならない」

と言っていたのだ。私たちと子どもたち、将来世代をつなぐビジネスとは何だろう。僕の頭に引っかかっていた疑問が、フラー先生の「未来の日数」と出会うことで解けた。環境問題こそ世代間をつなぐビジネスだったのだ。

ちなみに、先に引用した箇所は、本書の中では次のように書かれている。「富というのは、代謝的、超物質的再生に関して、物質的に規定されたある時間と空間の解放レベルを維持するために、私たちがある数の人間のために具体的に準備できた未来の日数のことだ。」フラー先生には申し訳ないが、下線の部分は省略させていただいた。「代謝的、超物質的再生に関して...」などと言われると、それだけで頭がくらくらして、本当に大事なメッセージが伝わり難くなってしまうと心配したからだ。ここまで省略してしまうと、もはや引用とは言えない、むしろ僕の勝手な創作ではないか、とお叱りを受けるかもしれない。そうした批判は甘んじて受けたいと思う。なぜなら、これが、僕が「読んだこと」、言い換えれば、フラー先生と対話したことだから。そして、その対話はもちろん、ピーターさんとの対話ともつながっている。

本を読むことは、対話することだと思う。著者との対話、友人・知人との対話、そして自分との対話。本書を通じて、フラー先生と、そしてあなた自身との対話を楽しんでいただければ幸いです。

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