この指とーまれ! by MARUI GROUP

Future View
2021.2.15

D2Cが切り開く未来

丸井グループでは、今後の経営にとって重要となるさまざまなテーマを考える場として「中期経営推進会議」をほぼ毎月開催しています。 2020年8月には、「D2Cが切り開く未来」というテーマで、株式会社Takramの佐々木 康裕氏、株式会社FABRIC TOKYOの森 雄一郎氏、当社代表の青井とのトークセッションを行いました。

登壇者:佐々木 康裕氏/株式会社Takram ディレクター/ビジネスデザイナー、森 雄一郎氏/株式会社FABRIC TOKYO 代表取締役社長

D2Cのエコシステムを支援する丸井グループの新会社 D2C&Co.の設立発表会のファシリテーターとしてもご登壇いただき、D2Cキュレーションサイト「5PM Journal」の編集長も務めていただいている(株)Takram 佐々木氏、さらに、最前線のD2Cプレイヤーである、ビジネスウェアのカスタムオーダーサービス (株)FABRIC TOKYOの森氏にご登壇いただき、コロナ禍によって急速に進むD2Cを取り巻く世界の変化や、理想の未来についてお話しいただきました。

「共同エクスペリエンス」の時代

佐々木:コロナ禍の今、「消費者がほかの消費者と築く関係」が、とても大事になってきています。オンライン・オフラインを縦軸、個人・集団を横軸と考えると、「オフライン・集団」の活動が難しい代わりに、「オンライン・集団」の活動がコロナ禍で盛んになっています。ゲームの「どうぶつの森」や「フォートナイト」だったり、オンラインの飲み会も増えていますよね。さらに最近は、「オフライン・個人」の活動も、「巣ごもり消費」という形で活発化しています。lululemon(ルルレモン)がMirror(ミラー)という会社を買収したことも「オンライン・集団」の活動の一つだと思っています。ミラーは、鏡型のデジタルデバイスを使って皆で一緒にレッスンを受けられるサービスを提供しています。ブランドと消費者の1対1の関係ではなく、消費者同士もつながりながらブランドと関係をつくっていく「Co-Experience(共同エクスペリエンス)の時代」になっていると感じています。

*¹ カナダ バンクーバー発のヨガウェアファッションブランド

「目的化するコミュニティ」、「ターミナル」から「キャンプファイヤー」へ

佐々木:2020年1月に私が出版した書籍『D2C 「世界観」と「テクノロジー」で勝つブランド戦略』にも書いたのですが、ブランドが最終的に商品を買ってもらうためにコミュニティをつくる「手段としてのコミュニティ」というものがあります。例えばSlack(スラック)のチャンネルをつくったり、オフラインイベントを開催したり、製品アイデアを具現化するというように、手段としてコミュニティを使っているのですが、最近はコミュニティ自体を目的化するブランドが出てきています。
このような話を探っていると、オンラインのコミュニケーションというものがだんだん、たくさんの人が行き交う「Terminal(ターミナル)」から「Campfire(キャンプファイヤー)」という形に変化していると感じます。SNSやネットニュースはさまざまな情報が入ってきて刺激的で楽しいですが、今の消費者が求めているのはどちらかと言うと、ほっとする空間や、親密な人たちがいて、静かな時間が流れているというコミュニケーションなのではないでしょうか。この、いわゆる「デジタルキャンプファイヤー」というのはこれからの新しいキーワードの一つになるのではないかと思っています。

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「RaaS」に進化するD2Cブランド

:我々は小売の会社でもあり、アパレルの会社でもあり、ITの会社でもあり、そしてユーザーエクスペリエンスを提供しているサービスカンパニーでもあります。事業はD2Cブランドといわれていますが、最近はD2Cの先である「RaaS」について考えています。「小売のサービス化」や「サービスとしての小売」という意味の「Retail as a Service」を省略して「RaaS」と呼び、具体的にはサブスクリプションのサービスリリースやスマートファクトリー、サーキュラーエコノミーの構想などを発表しています。ECを軸にブランドを立ち上げることがD2Cと呼ばれていますが、我々はD2Cと「SaaS」というサービスを提供するビジネスモデルを融合した「RaaS」というビジネスモデルを提唱しています。売って終わりではなく、売った時からサービスがスタートするというのが「RaaS」だと考えています。FABRIC TOKYOでも、月額398円から加入できる「FABRIC TOKYO 100」という、購入後も徹底的にサポートを行うサブスクリプションサービスを提供しています。洋服をたくさん買っていただくというよりも、「買っていただいたものを長く楽しんでいただきたい」という想いで始めました。また、ブランドと企業のマッチングの場を提供したいと考え、「Original Lab」というD2Cブランドクリエイターの支援プログラムも始めました。丸井グループさんや、佐々木さんにも参画していただいています。2週間で100社の応募があり、約20社が参加するプログラムになっています。

*² Software as a Serviceの略称。インターネット上のクラウドで提供されるソフトウェアサービスのこと

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体験がお客さまとの長いお付き合いの起点に

佐々木:最近はさらに「Experience economy(経験経済)」に変化しているという話もありますね。その背景としては、「ビジネスが時間軸を持ち始めた」ということが大きなポイントだと思います。どういうことかと言うと、これまでは消費者とブランドは「売る」もしくは「買う」に結実していましたが、その前にSNSを通してブランドやファウンダー(創業者)のことを知れたり、商品を買った後、まさに森さんが行っているメンテナンスなどもできるようになっているということです。モノの売買だけではなく、関係が続く体験がすごく大事になっています。
もう一つのポイントは、コモディティ化*³です。「上質なシャツや靴を買う」ということが、誰にでも可能になってきています。動画ストリーミングサービスについても、「Amazonプライム」や「Netflix」があり、良い経験を提供し続けないと、ボタン一つで競合に乗り換えられてしまいます。商品の差別化から体験の差別化へ、レイヤーを一つ上げなければならない状況です。

:そうですね。コロナ禍で、私もECサイトの利便性や品揃えには恩恵を受けていますが、今朝宅配便が来た時に、自分で何を買ったのか忘れていたんです。そんな生活はもの寂しく、つまらないですよね。一方で、8月に「b8ta」がオープンしましたが、欲しいものをついつい買ってしまったり、わざわざ足を運びたくなるような楽しさがありますよね。やはり小売はそういった買い物体験の楽しさを提供すべきだと感じます。

青井:森さんもビジネスの中核をお客さまの体験に置いているとおっしゃっていましたが、書籍『アフターデジタル』*⁴でも「DXの本質はUXだ」と書いてありました。これは、「UXから始まらないDXは危険だ」と言っているのだと思いますが、DXやテクノロジーに本質があるのではなく、お客さま起点のUXを実現していくべきなのではないでしょうか。

佐々木:そうですね、UXは商売の基本の「き」になっていくはずです。また、自分が良いと感じた体験の共有をどうブランドが後押しするかも、重要だと思います。例えば、ナイキのショップに行くと、一人で靴のカスタマイズをしている人は少なく、たいていカップルや家族で来店しています。ユーザー同士でその体験を共有し合うことで、さらにブランドへのロイヤリティが高まるということですね。

青井:もう一つ、大切だと考えているのが、体験から長いお付き合いに発展させていくことです。これまでの商売は、いわば「売り切り型」でしたが、そうではなくて、そこから旅のように長く続いていく。その中で体験をより良いものに変えていって、「Co-Experience」のように、体験の共有を膨らませる。これが今までとの大きな違いではないかと思います。

佐々木:本当におっしゃる通りですね。「カスタマージャーニーから考える」ということが、サービス設計の基本の「き」になっています。競合とのバランスなどを加味した商品づくりも大事ですが、書籍『D2C』でも書かせていただいた通り、カスタマージャーニーは線ではなく丸のような形が理想だと考えています。商品の売買から関係を継続して、ずっと丸の中に居続けてもらうことが、これからのブランドビジネスにとって大事なのではないでしょうか。

青井:おもしろいですね!線ではなく、輪になって皆で囲むというのはキャンプファイヤーのような感じですね。

:ウォルト・ディズニー氏も「ディズニーランドは完成しない」と言っていますが、ブランドも完成せず、姿・形をどんどん変えていくべきですよね。「お客さまはカスタマーではなく仲間だ」という考え方が主流になってきていますが、時代の変化とともにお客さまの考え方も変わり、年齢を重ねてライフステージの変化もあり、それと同時にブランドも変化していかないといけない。だから終わりのないカスタマージャーニーになるのだと思います。

青井:とても共感できます。昔、ビジネススクールの定番になっていたマイケル・ポーター氏の『競争の戦略』*⁵で、「5つの競争要因」の中に「顧客」が挙げられていました。私は当時から「お客さまはパートナーなのではないか」と感じていたので、すごく違和感がありました。お客さまとの関係がターゲットや駆け引きの相手から「仲間・パートナー」に変化することで、体験の共有やジャーニーが始まるのではないでしょうか。佐々木さんからも、ファウンダーの人柄がお客さまとの関係ですごく大事になるというお話がありましたね。

佐々木:森さんの「自分の体型に合う服がなく、ブランドをつくった」という一貫性が、ブランドストーリーの厚みを生んでいると感じます。最近の消費者は、ブランドの人格とそれをつくっている人の人格がフィットしているのかどうか、それがきちんとプレゼンテーションされているかどうかを重要視しています。もし子どものいない僕が女性向けの下着ブランドや子育て用品をつくっても、ストーリーがフィットせず、「マーケットがあるからやっているだけ」ととらえられてしまいます。「それをやる資格があるか」と「本物であるか」の「リアリティ」と「オーセンティシティ(真実性)」が次のキーワードだと思います。

:原体験を持っていると、例えば「手が長い」という自分の悩みをきっかけに、「首が太い」「脚が太い」というようなほかの人の悩みも理解しやすいですよね。こういった経験から「Original Lab」というD2Cの起業家コミュニティをつくりましたが、そこでは起業家の原体験にも重きを置いています。「PMF(プロダクト マーケット フィット)」は大体2年から3年ほどかかると言われていますが、「FMF(ファウンダーマーケットフィット)」が先に来ないと、もっと時間がかかります。D2Cはよりニッチなニーズに対して、サービスやプロダクトを提供しているので、「FMF」が不可欠だと感じます。
「Original Lab」では女性向けのプロダクトが増えています。普通のスタートアップコミュニティでは女性比率が5%程度のところ、「Original Lab」では4割弱が女性の起業家なんです。

青井:本来は私的な自分の原体験を普遍的なものに転換していくことで、すごく共感されて、体験が共有できるようなブランドになりますよね。参加者の4割が女性ということで、D2Cがこれまでのベンチャー業界にはなかった可能性を切り開いていけると感じました。森さんは次の世代も育てたいという気持ちがあると思いますが、「Original Lab」に100社の応募があったということは、やはりD2C業界が活気づいているということでしょうか。

:「自分が本当にやりたい事業で起業したい、ブランドをつくりたい人」はもともと多くいたと思いますが、ノウハウもなければ、インフラも整備されていませんでした。ですが、近年一気に整ってきて、熱量を持った人たちがどんどん出てきています。こうした中で、ブランドを起業しようとしている人たちにとって自分の経験やお互いを高め合う場が必要なのではと思い、「Original Lab」を立ち上げました。

*³ 市場に流通している商品が個性を失い、消費者にとってどこのメーカーの品を購入しても大差のない状態のこと
*⁴ 『アフターデジタル オフラインのない時代に生き残る』|藤井 保文(著)|日経BP社|2019年
*⁵ 『競争の戦略』|マイケル・ポーター(著)、土岐 坤・中辻 萬治・服部 照夫(訳)|ダイヤモンド社|1985年

個人から大企業まで、多様なD2Cブランドの誕生

佐々木:NewsPicksさんの「NewSchool」という「学ぶ、創る、稼ぐ」をコンセプトにした学校があるのですが、私はその中で「D2C実践」というコースを担当しています。これからのD2Cでとても大事なのは、一般の方がブランドをつくれることだと思っていますが、参加者の方には抱っこひものブランドを立ち上げようとしている二人の子どものお母さまなどもいて、まさにD2Cの裾野が広がっていると感じています。

青井D2C&Co.を設立するにあたって、森さんがおっしゃったような、自分が夢中になれることや大好きなことを仕事にしたい人が、D2Cをきっかけにして起業できるようにしたいという想いがありました。これまでの日本や世界は、GAFAのような大企業が社会の発展にも貢献してきたと思いますが、これからは個人がやるようなキラキラ輝く小さなビジネスやブランドがたくさんある世界をつくってきたいと思っています。お二人は今後、スモールビジネスはどのように変化していくと思いますか。

:佐々木さんがおっしゃっていた抱っこひもの方のように、自分が苦労した経験などの原体験からニーズを感じ取ってブランドを提供する方もいますし、一方で、ものづくりの工場や職人さんなど、2代目、3代目の方が家具やアパレルブランドを立ち上げるという流れも出始めています。そういった多様な方々をどんどん支援していく必要があると考えています。おそらく2019年がD2C元年だと思いますが、新型コロナウイルスの影響もあり、世の中に必要とされる中でブランドを立ち上げようという人のために、エコシステムを盛り上げていく必要がありますね。

佐々木:私は二つあると感じています。一つ目は、多種多様なD2Cブランドが生まれてくることです。森さんのおっしゃるような、D2Cに活路を見出す方のほかに、大企業のD2Cブランドも増えていますよね。2020年5月に発表されたSONYの中期経営計画でも「D2C(DTC:Direct to Consumer)」という言葉があったり、スポーツブランドやタクシー会社など、さまざまな業界がD2Cを始めています。D2Cはこれから小売のスタンダードになり、GAFAのような高い塔がある一方で、裾野が広い、富士山のような形になると思います。
もう一つ感じていることは、「体験のオンライン化」が増えるということです。森さんが「買い物してすごくワクワクした」とおっしゃったように、オフラインの重要性も残るとは思いますが、オンラインのある中で生まれ育った人の比率がこれからますます増えます。Z世代と話していると、彼らは日本ではなくインターネットという国に住んでいて、インターネット語を喋っているように感じて衝撃を受けます。「日本人の若者」というよりは、「インターネット国に住む、インターネット語を話す若者」である彼らの価値観の理解が、これからますます重要になってくると思います。

:これからDXやD2Cの時代に突入していく中で、リアルのことだけをやっていてはなかなか良いサービスを提供しづらいと思います。小売ではIT人材の育成など、人材のトランスフォーメーションにいち早く投資をした会社が次の果実を得るのかもしれません。

青井:そうですね。リアルとデジタル両方の経験がないと活躍しづらくなると思い、当社でもこの数年間、IT人材の育成に注力しています。

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登壇者プロフィール
佐々木 康裕氏
(株)Takram ディレクター/ビジネスデザイナー

クリエイティブとビジネスを越境するビジネスデザイナー。ユーザーリサーチから、コンセプト立案、エクスペリエンス設計、ビジネスモデル設計を手掛ける。デザイン思考に加え、認知心理学やシステム思考を組み合わせた領域横断的なコンサルティングプロジェクトを展開。
Takram参画以前は、総合商社でベンチャー企業との事業立ち上げなどを担当。経済産業省では、Big dataやIoTなどに関するイノベーション政策の立案を担当。 早稲田大学政治経済学部卒業。イリノイ工科大学Institute of Design修士課程(Master of Design Method)修了。

■おもな著書

D2C 「世界観」と「テクノロジー」で勝つブランド戦略|NewsPicksパブリッシング|2020/1/10

https://www.amazon.co.jp/dp/B082SL6K9P/

登壇者プロフィール
森 雄一郎氏
(株)FABRIC TOKYO 代表取締役社長

1986年生まれ岡山県出身。大学卒業後、ファッションイベントプロデュース会社「ドラムカン」にてファッションショー、イベント企画・プロデュースに従事。その後、ベンチャー業界へ転向し、不動産ベンチャー「ソーシャルアパートメント」創業期に参画したほか、フリマアプリ「メルカリ」の立ち上げを経て、2014年2月、カスタムオーダーのビジネスウェアブランド「FABRIC TOKYO(旧・LaFabric)」をリリース。
”Fit Your Life”をコンセプトに、顧客一人ひとりの体型に合う1着だけではなく、一人ひとりのライフスタイルに合う1着の提供に挑戦中。

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