対話・対談
2024.1.13

私たちはどうしたらインクルーシブな社会をつくれるのか?

  • 井上 ひとみ
    特定非営利活動法人カラフルブランケッツ
    理事長、獣医師
  • 松山 優里
    株式会社丸井グループ サステナビリティ部
    ヒューマンライツチーム チーフリーダー
  • 大熊 チェルシー
    株式会社丸井グループ サステナビリティ部
    ヒューマンライツチーム リーダー

同性カップルの困りごとやLGBTQカップルの想い、結婚できない現状などを多くの方に知ってもらう「私たちだって“いいふうふ”になりたい展」。マルイ店舗を含め全国でこのイベントを開催している「カラフルブランケッツ」の井上ひとみ氏をお招きし、丸井グループでダイバーシティ&インクルージョンの取り組みを進めている社員2名と語ってもらいました。丸井グループのインパクトのテーマの一つ「一人ひとりの『しあわせ』を共に創る」をLGBTQの観点で掘り下げます。

目次

    身近に当事者がいたら偏見はなくなる

    ――まず、井上さんが「カラフルブランケッツ」を設立し、「私たちだって"いいふうふ"になりたい展」を開催するようになった経緯から教えてください。

    井上:私は、17~18歳の時に、自分がレズビアンであることを自覚しました。キリスト教系の高校に通っていたのですが、「聖書には同性愛は罪と書かれている」という解釈が一般的だったので、友だちからも学校からも、また宗教からも排除されていると思って、そのことをまったく誰にも言えませんでした。
    大学を卒業して勤務医をしていたころも、プライベートの話は一切しないように気をつけていました。当時の院長は、「同性愛者は怖いし、気持ち悪いから、うちの病院には来てほしくない」と公言するような人だったのです。レズビアンであることを知られてはいけないと思いながら働いていると、パフォーマンスが発揮できなくて、本当にしんどかったです。

    ――気持ちが前向きになっていったきっかけは?

    井上:2015年に大阪で開催された「関西レインボーフェスタ」で「公開で結婚式を挙げてくれるレズビアンカップルを探しているのですが、出てくれませんか」というお誘いを受けたのです。そのころすでに友人と動物病院を開業していたのですが、私がレズビアンであることを病院に来てくださる飼い主さんに知られたら、変な噂が立って、最悪の場合はつぶれてしまうのではないかと思いました。でも、その友人は「あなたのことを悪く言う人はうちの病院に来てもらわなくて結構です」と言ってくれました。その言葉に後押しされたのと、もう一つ、私が公開結婚式の場に出ることで「同性愛者は身近にいる」ということが伝わるとしたら、そこに大きな意義があるんじゃないかと考え、参加しました。結果として、とても多くの方から祝福してもらえました。自分でも、あんなにしあわせな気持ちになれるとは思ってもいませんでした。
    また、高校時代に「レズビアンは気持ち悪い」と言っていた友だちに、縁を切られてもいいという覚悟で「今度、同性のパートナーと結婚式を挙げます」と伝えたんです。そうしたら「本当に申し訳なかった」と私に謝ってくれたうえ、結婚式に出るために横浜から大阪まで来てくれました。かつては私がレズビアンであることを知らなかったのだから、友だちに悪気があったわけではないんですよね。身近に当事者がいたら偏見はなくなるということを、身をもって実感しました。

    ――その体験が「カラフルブランケッツ」の立ち上げにつながるわけですね?

    井上:そうです。当事者が身近にいるということを知ってもらうための講演活動を継続的に行ったり、当事者とアライ(理解者、支援者)が交流を深めたりするために「カラフルブランケッツ」を設立しました。
    私たちは以前から同性婚の法制化を望んでいるのですが、国は一向に動きません。同性婚訴訟(「結婚の自由をすべての人に」訴訟)は全力で応援していますが、それ以上に何か自分にできることはないかと考えるようになりました。そこで、LGBTQカップルの困りごとや法的な現状を紹介し、同性婚の必要性を知ってもらうイベントができないかと思って始めたのが、「私たちだって"いいふうふ"になりたい展」です。まず地元大阪で開催したのですが、反響がものすごく大きくて、今では全国各地でやらせていただけるようになりました。LGBTQを記号として理解してもらうのではなく、人の体温を感じ取ってもらうイベントにしたいと考えています。

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    より多くの方に知ってもらうため、渋谷モディでイベントを開催

    ――2023年4月に渋谷モディで開催された「私たちだって"いいふうふ"になりたい展」に、松山さん、大熊さんも行かれたそうですが、展示を見てお二人はどう感じましたか?

    大熊:すごく勉強になりました。同性のパートナー同士が交わした手紙の写真などが展示されていて、こんなにお互いを想い合っているのになぜ結婚できないんだろうとあらためて課題として強く認識するようになりました。

    松山:私自身、結婚することが決まっていたので、相手を想う気持ちに深く共感しました。その一方で、もし自分の選んだ相手が異性でなかったら、家族はどんなリアクションをしていたんだろう?と考えたりしました。同性婚も異性婚と同じように、うれしい出来事としてとらえられるようになればいいなと思うきっかけになりました。

    ――ラブレターのコーナーは本当にグッと来ました。熱心にご覧になっていたお客さまに「これを目的にご来店なさったのですか?」と聞くと、「そうではないけれど、すごくすてきな展示だったので見ています」とおっしゃっていました。

    井上:それはめちゃめちゃうれしいですね。2016年10月に大阪のなんばマルイで「OUT IN JAPAN」(セクシュアルマイノリティにスポットを当てるプロジェクト)の写真展があったのですが、私はその被写体の一人でした。
    当時の雰囲気としては、商業施設がLGBTQフレンドリーを打ち出しても、即売上につながることはほとんどなく、むしろリスクの方が高い状況だったので、丸井グループはインクルージョンへ向けて本気で取り組んでいる企業だと感じました。だからこそ「東京レインボープライド」(以下、TRP)の開催のタイミングで渋谷モディへの出店のお話をいただいた時はとてもうれしかったです。しかも1階のすごく良い場所をご提案いただいて、本当にびっくりしました。

    松山:あの場所は、渋谷のマルイを象徴するイベントスペースです。TRPのタイミングに合わせ、LGBTQに関連したさまざまなイベントの候補を探していて、核となるイベントをどうするか、何が丸井グループのめざしたい未来に一番近いかを考え、店舗担当者から井上さんにお声がけした形です。

    井上:日本テレビのニュース番組が取材に来てくださいましたが、放送後の反響がすごかったですよ。「見たよ」と言ってくれる人がたくさんいましたし、テレビのニュースで話題として取り上げられるようになったこと自体を喜んでくれる人もたくさんいました。

    大熊:丸井グループもTRPの協賛企業のうちの1社ですが、協賛企業が集まるカンファレンスに参加した時に「プライドパレード(参加者や団体・企業がカラフルに装飾されたフロート車を先頭に渋谷から原宿を行進するイベント)で一番盛り上がるポイントは、渋谷モディの前を通る瞬間」という話を聞きました。LGBTQの象徴であるレインボーを店頭に掲げるなど、店舗としていろんな取り組みをしていますが、TRPのパレードに参加している皆さんにとって象徴となるような店舗になってきているのかなと思います。

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    丸井グループの若い世代が自発的に活動開始

    ――今、丸井グループで進めている取り組みを紹介してください。

    松山:私はサステナビリティ部のヒューマンライツ担当として、LGBTQだけでなく、あらゆる人権問題に関する課題解決に取り組んでいます。また、人事部にはワーキング・インクルージョンに取り組む部署があり、社内の制度整備はその担当者を中心に進めています。さらには、社員公募で「DE&Iイニシアティブ」を立ち上げたり、「ジェンダーイクオリティプロジェクト」の活動を行ったりする中で、ビジネスを通してどのようにDE&Iを実現していくかということを皆で考えています。

    井上:イニシアティブを公募ということは、部署の垣根を越えて手を挙げる社員がいるということですね?

    松山:そうなんです。メンバーは本当にさまざまです。

    井上:日常の業務もあるのに、あえてそういうことに参加する方がいるのはすばらしいですね。

    大熊:いろいろな方から丸井グループの取り組みはすごいと言っていただくのですが、中にいる人間から見ると、まだまだと思う部分もあり、試行錯誤しているところです。例えば社内研修ですが、「もっと社員の行動が変わるような内容にしたい」という声が当時新入社員であった私の同期から出て、研修資料のリニューアルを考える中で知り合った人たちとダイバーシティ領域のERG(エンプロイー・リソース・グループ*)を立ち上げました。まだ3カ月ほど前にスタートしたばかりで、具体的な活動はこれからなのですが、他社と交流したり、社内の課題を明確にして解決をめざしたり、当事者とアライが交流したりする機会を提供することなどを考えています。

    松山:大熊さんがサステナビリティ部に来てから研修内容を一新したのですが、その1年後にはERGを立ち上げるという話になって、皆の熱量の高さにはとても感銘を受けました。私もERGに参加していますが、大熊さんのような若い世代が声を上げることによって、社内の風土が少しずつ変わり始めているような印象です。

    井上:今の若い人たちには、セクシュアルマイノリティを受け入れる素地ができ上がっているんですよね。覚悟を決めて、思い切ってカミングアウトしても「あ、そうなんですね」とごく自然に対応してくれて、もう少し深刻に受け止めてほしいと思うくらい(笑)。世の中が少しずつ良い方向に変わってきているように感じています。

    * 組織の中で同じ特質や価値観を持つ社員が主体となって運営するグループ

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    当事者とアライが楽しく対話できる場を

    ――井上さんの活動には法整備に向けた取り組みもあります。丸井グループがその部分で貢献するのは難しいと思いますが、企業に対して求めていること、足りていない部分などはありますか?

    井上:社員である前に、一人の人間として大事にしてほしいと思います。私が勤務医だったころに感じたつらい思いを、皆さんにはしてほしくない。ある会社でD&Iの取り組みを推進する部署にいる私の友人は、「会社では絶対にカミングアウトできない」と言っています。外に向かってD&Iを大々的に打ち出していても、社内にはそういう風土が全然でき上がっていないからだそうです。制度が整うことと風土の醸成は必ずしも合致しないので、まずそこから頑張ってもらいたいなと思っています。社内に風土ができると、働いている人の家族やそのまわりの人たちへも波及していきます。

    松山:まさに当社でも、風土をつくるにはどうしたらいいかということで悩んでいて、研修を受けた人に感想を書いてもらうと、中には「自分のまわりにはいませんが」というコメントもまだ少し見受けられます。

    井上:身近にアライを表明している人が一人いるだけでも当事者は安心できます。実際私は、アライが可視化されているだけですごく楽になりました。社内でアライを表明してくれる人が少しずつ増えていったら、「自分のまわりにはいない」とか「そんなに気を遣わなくてもいいのでは」なんて言う人の方が少数派になっていきます。

    大熊:当社でも、研修を受けた後、希望する人にはアライを表明するバッジを渡しています。マルイの館全体でウェルカムの雰囲気を出したいという想いがあるので、テナントさんも研修を受講できるようにしていて、社員と同じようにバッジをお渡ししています。

    松山:ただ、バッジをつけたからといって自信を持ってアライだと表明できるかというと、全員がそうではないと思います。相談する側が安心して相談できるように、「いつでも相談してもらっていいんだよ」と気軽に表明できるようなアライ・コミュニティのような場があるといいかもしれないですね。

    井上:私がかかわらせてもらっている企業にアライ・コミュニティがあって、勉強会を開催したり、LGBTQ関連の映画を観て感想を話し合ったりしているそうです。楽しく皆で学びましょうということで、プライド月間には当事者を呼んで食事をしながらざっくばらんに話すような会を開いているんですね。私も呼ばれたことがあるのですが、すごく楽しくて、当事者としてもまた参加したいと思える会でした。

    松山:それはぜひお話を聞いてみたいですね。丸井グループでも、できることは最大限取り組んでいます。例えば、同性のパートナーでも異性のパートナーと同じように福利厚生を受けられる制度があります。パートナーとして申請することで、忌引きなどの特別休暇やお見舞金など、いろいろな面で異性パートナーと同じ条件で福利厚生が受けられます。

    大熊:制度としては整っているのですが、カミングアウトしやすい環境にはまだ課題を感じています。

    ――井上さんは当事者として、カミングアウトした時にどんな言葉をかけてもらいたいですか?

    井上:実際に言われたことがあるのですが、「そうだったんだ。もし傷つけたりしたことがあったらごめんね」と言ってもらえた時は、すごくうれしかったですね。「言ってくれてありがとう」という言葉もうれしいし、「それを知ったからといって、これまでの関係性と変わらないよ」と言ってもらえるのも安心します。

    松山:「自分の性的指向は、別にまわりの人に話す必要はない」と言う人もいると思うのですが、隠していることで気持ちがふさがるようなことはありましたか?

    井上:よく「セクシュアリティは仕事にはまったく関係ない」と言われるのですが、そんなことはありません。雑談しない職場ってないじゃないですか。「夫が」「妻が」「子どもが」という話は絶対に出ますし、私も「彼氏はいるの?」と聞かれたりしました。「彼氏はいません」と答えたら同僚に婚活パーティに誘われました。相手にはまったく悪気はないのですが、その話題に触れられたくなくて距離を取っていたら、業務に必要な話もしてもらえなくなりました。レズビアンであることを言わずに済ませようとすると、小さな嘘を重ねないといけない日常になってしまい、それはすごくしんどかったです。

    ――「カラフルブランケッツ」は、丸井グループと共にどんな未来を築いていきたいですか?

    井上:丸井グループが掲げているミッション「すべての人が『しあわせ』を感じられるインクルーシブな社会を共に創る」には本当に共感しています。私自身もLGBTQに限らずすべての人が暮らしやすい社会をめざして活動しているつもりですから。

    松山:今日のお話をうかがって、いろいろなことが一緒にできそうな気がしました。行動を起こすことであらためて気づくことがあると思うし、風土にしていけるかどうかという視点を持って取り組んでいかなければいけないでしょうね。まずは社員に向けて働きかけていくことが重要ですが、楽しい集まりのような企画はとても良いと思うので、ぜひ今後ともお話をおうかがいできればと思います。

    井上:ありがとうございます。よろしくお願いします。当事者とかかわったらしんどそうと思われたら誰もやりたがらないので、かかわると楽しいことがあるんじゃないかと思ってもらうことが大事かなと思います。例えば、先ほどもお話ししたように、LGBTQにまつわる映画を観て感想を話し合うとか、お茶や食事を楽しみながら当事者とおしゃべりするとか。オンラインもいいですが、できればもっと近い距離で対話できる機会があればいいなと思いますね。そうなれば「知り合いに当事者はいない」ということにはならないと思うからです。

    井上 ひとみ

    特定非営利活動法人カラフルブランケッツ理事長、獣医師 1979年、京都市生まれ、大阪市在住。住之江公園南トート動物病院副院長。2015年「関西レインボーフェスタ」で同性結婚式を挙げ、レズビアンであることをカミングアウトした。メディアや講演などを通じ、身近にもLGBTQの人がいることを知ってもらうための活動を開始。2018年大阪市同性パートナーシップ宣誓証明制度を第1号で利用。民間団体や企業・自治体・小学校・中学校・大学などから依頼を受けて講演を行っている。

    カラフルブランケッツ公式サイト - http://www.colorfulblankets.com/

    松山 優里

    株式会社丸井グループ サステナビリティ部ヒューマンライツチーム 2014年入社。新宿マルイ 本館、博多マルイで販売職を経験後、小売事業を通じたインクルージョンを実現する新規事業としてインクルーシブファッションプロジェクトを担当。現在はサステナビリティ部ヒューマンライツチームにて人権デューデリジェンスやDE&I推進に携わっている。

    大熊 チェルシー

    株式会社丸井グループ サステナビリティ部ヒューマンライツチーム 2021年入社。マルイファミリー溝口で半年間の研修後、現在はサステナビリティ部ヒューマンライツチームにて人権デューデリジェンスやDE&I推進、ESG情報開示などの業務を担い、グループのESG価値向上に努めている。