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経営に欠かせない要素として「ウェルネス」や「ウェルビーイング」が注目されています。不確実性が高まっている世の中で企業が生き抜くためには、心身ともに健康でイキイキと働く社員を増やすことが大切です。社員の病気やケガを予防するだけにとどまらず、創造性を引き出し、生産性を高めるウェルビーイング経営とは何か。 「『しあわせ』が企業価値を高める ウェルビーイング経営のススメ」というテーマで、産業医と執行役員の2つの顔を持つ丸井グループの小島 玲子が解説します。
出典:「日経ESG」2021年4月号 連載「『しあわせ』が企業価値を高める ウェルビーイング経営のススメ」より
コロナ禍の中、人々が挨拶がわりに「ワクチンの免疫効果はどのくらい持続するのか」などと免疫の話をすることは、もはや日常の風景となっています。
免疫とは、一言で言えば「偶然性が作り得る生物的な逆境に対峙する機構」のことです。病原体といつどこで出合うかを予想して対処するのは不可能です。免疫システムは、対処の誤りを修正する多くのメカニズムを持っています。
生物において、あらかじめ完璧にデザインされた固定的なシステムはありません。免疫システム自体も、長いプロセスを経て進化してきました。
複数の要素が関係し、個々の要素の分析だけから全体の動きを理解するのが困難なシステムを「複雑系」といいます。免疫システムも複雑系の1つです。免疫研究で世界的に有名なフィリップ・クリルスキー博士は、免疫の進化は「PAC理論」と同じプロセスだろうと述べています。
PAC(Probably Approximately Correct)、「おそらく、大体正しい」というモードにAI(人工知能)を設定すると、反復学習によって、結果的に高度の正確さと進化がもたらされます。計算機科学の大家レスリー・ヴァリアント教授は、この進化の仕組みを「PAC理論」と名付けました。複雑で変化の激しい世界で、生物はなぜ環境に適応して生き残ってきたのか。その鍵とも言われる理論です。
複雑系では、ある行動が全体の結果にどうつながるか、1対1の因果関係で説明するのは困難です。分解した要素の評価指標をどれだけ厳密に取っても、本質的な目的の評価にはつながりにくい。
だからこそ、本質的な目的に対して、「おそらく、大体正しい」かどうかを高頻度に検証するPACの姿勢が、複雑系で進化する道だということです。
クリルスキー博士は、自著*¹ でPAC理論がうまく機能する3つの要件を示しています。
ただ、複雑系の社会における実務では、これがなかなかうまくいきません。企業の健康経営を例に取って見てみましょう。
よくある企業の健康宣言には、「社員がイキイキと働き、人々をしあわせにする」といった文言が並びます。しかし、「本当にこの目的に近づいているか」が検証されることは、めったにありません。末端の指標(健診受診率、教育実施率、喫煙率など)を設定し、年に1回進捗状況を把握するだけというケースもあるでしょう。それが当たり前にさえなっています。いつの間にか、「今年も〇%の社員に教育実施」というプロセス評価に満足し、手段が目的化していきます。
PAC理論の肝は、「本質的な目的に向かっているかどうかを検証する」ことです。これを阻む背景には、不確実さや曖昧さに対する私たちの恐れや防衛意識があるように思います。「本当にその指標で効果が分かるのか」「この事象はまだ検証できる段階にないのではないか」と指摘されたくないのです。誰からも文句を言われない数値を求めて、検証自体を半ば放棄してしまうことすらあります。
そもそも、複雑系はパーツに分けて評価した時点で、正確な評価にはなり得ません。物事を細部まで完璧に詰めてからでないと前に進まない風土では、残念ながら変化の激しい世界で生き残っていけないのではないでしょうか。
丸井グループのウェルネス経営の目的は、「人と社会のしあわせ(Well-being)」です。それを検証するためにさまざまな試行錯誤を続けてきました。
その一環として2020年度、日立製作所の矢野和男フェローが開発したしあわせを数値化するアプリを活用し、実証実験を複数回行いました。具体的には、自発的に参加した社員700人が、しあわせの数値を上げる行動を取ることで、職場の活力を高めていきました。研究者の試算によると、この実証実験における社員のしあわせの向上効果は、21億円の営業利益増加に相当する結果となりました。
この結果は、20年12月の投資家説明会で報告し、統合報告書でも公表しています。投資家から、「その方法で本当にしあわせが測れるのか」「しあわせは利益につながるのか」といった指摘が出ることも想定していました。しかし意外にも、「人の活力を高める取り組みの効果を数値化した意義は大きい」と、むしろ好意的に受け止めてもらえました。現在は、取り組みの良い点と課題を検証し、しあわせという目的に近づくために取り組みをさらに進めています。
もっと足元から、組織の中でできることもあります。私がともに学ぶ産業医との勉強会では、「我々は健康のプロとして人と組織を統合し、活力を高め、事業と社会の発展に貢献する」という本質的な目的を共有し、文面にも表しています。
毎月の勉強会の最後には、「チェックアウト」というシステムがあります。「今日は、誰が最もこの目的に近づく言動をしたか」を全員がコメントし、目的を意識して行動できた人を讃えるのです。本質的な目的を常に意識して行動する、組織の慣行です。
複雑系の世界では、「おそらく、大体正しい」かどうかを、高頻度に検証して次の行動につなげていく。「生命を進化させる究極のアルゴリズム」とも言われるPAC理論は、私たちを本質的な光(目的)に導いてくれるヒントと、勇気をくれるように思います。
*¹「免疫の科学論 偶然性と複雑性のゲーム」(フィリップ・クリルスキー著、みすず書房)
丸井グループの 取締役 CWO 兼 産業医でもある小島玲子の日経ESG連載企画第5弾!
— この指とーまれ! (@maruigroup) July 29, 2021
今回は、「おそらく、大体正しい」かを検証するPAC理論を使って、本来の目的に沿った #ウェルネス経営 の指標の立て方について考えます#健康経営https://t.co/iID51BpJtD
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