Inclusion Rally
2021.9.17

理念をつくるのは、共感し合う人と一緒に新しい価値をつくるため

株式会社サインコサイン 代表取締役 加来 幸樹

すべての人が「しあわせ」を感じられるインクルーシブで豊かな社会の実現に向けて、各界のリーダーから提言をいただく連載コンテンツ「Inclusion Rally」。
第8回目は「理念やアイデンティティを通じた言葉の持つ意味や力と覚悟」というテーマで、「自分の言葉で語るとき、人はいい声で話す。」を理念とした株式会社サインコサイン 代表取締役の加来 幸樹氏に、理念を掲げる意味や想い、これからの働き方や生き方についてうかがいました。

――企業や個人のお客さまと理念を共創するビジネスを展開する「株式会社サインコサイン」を立ち上げた加来さん。起業のきっかけになった経験やバックグラウンド、言葉に対する想いについて教えてください。

もともとクリエイティブな広告の仕事をしたくてインターネット広告事業を手がけるセプテーニに入社しました。2~3年おきに注力テーマや自身の役割も変わる業界で、飽きずに楽しく成長している実感もありましたが、僕は自己実現欲求も人一倍大きいので、さらなる刺激的な機会も常に求め続けていました。そのような中、20147月に自分の時間を売ることができる「タイムチケット」というサービスに出会いました。

試しに自分も何かチケットを提供してみようと考えた時に思い浮かんだのが「言葉」に関するものでした。自分が言葉遊びのような名前だからか、芸術系の大学に通い広告クリエイティブの仕事をしているのに絶望的に絵心がないせいなのか、思い返せば昔から「言葉」を重視した作品やクライアントワークを手がけることが多かったように思います。自分を鍛えてくれた上司が褒めてくれた数少ないポイントがそこだったこともあるかもしれませんが、当時の自分の仕事では携わることの少なかった「ネーミング」に着目し、30分で「それだ!感のあるネーミングを考えます。」というチケットをつくって提供し始めました。

チケットは好評で、本業をハードにこなしながらも、依頼者に自分なりの価値を提供できていることに意味を感じながら前向きに取り組み、たくさん実績を積み上げることができました。そうして数多くの相談に応えていく中で、テレビ番組などにも「ネーミングをクリエーションしている人」として紹介されるようになったり、社内外から広告領域に留まらないさまざまな言葉づくりの相談をされたりするなど、自身のキャリアへのポジティブな影響も強く実感するようになっていました。

当時はまだ今ほど副業なども一般化していない時代ではありましたが、ゆくゆくはサラリーマンとして本業に軸足を置きながらも、ひとりの起業家として自分のやりたいことと誰かのやってほしいことの重なるポイントで自立して価値提供を行っていく「起業家のように働くサラリーマンクリエイター」になれたらおもしろいと考えて、個人としての活動も加速させていきました。

その結果として本業への相乗効果もたくさん生まれましたが、「より自立して自由に自分の信じる理念を具現化してみたい」という気持ちが強まり、セプテーニグループ内の新規事業プランコンテストに挑戦し、新規事業開発部門への転籍を経て、株式会社サインコサインの設立に至りました。

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クラウドファンディングで実現した、個人理念を啓発する屋外広告

言葉にすることの本当の価値は、コラボレーションにつながること

――言葉の持つ力が個人や企業にどのような影響を与えていると思いますか?

タイムチケットをやっているときに意外だったのが、ネーミングに限らず本当にさまざまな言葉づくりの相談がきたことです。「企業理念、コンセプトを言語化してほしい」といったものに加えて、フリーランスの方から「自分の肩書きを考えてほしい」、個人や学生の方から「僕のキャッチコピー、あだ名をつけてください」「子どもの名前をつけてください」という依頼もありました。企業も個人も皆アイデンティティで悩んでいて、それを定義する言葉のニーズがあるということに気づきました。

そのような中で自分の必要性を実感できたのが、言葉が決まらなかった依頼者から「なんで決められないかがわかって満足です」と言われた時でした。依頼者が対話を通じて自分自身と真剣に向き合えた時こそ、良い価値を提供できたと思えたのです。そして、このあたりにこの仕事の本質がありそうだなと思いました。

言葉にする過程で自分のアイデンティティへの覚悟を深め、言葉を決めることで自分のアイデンティティに自信を持つことができる。正解のレールも絶対のルールもない時代だからこそ、企業にとっても個人にとってもアイデンティティを言葉にすることには大きな意味があるはずです。そして、言葉にしているからこそ相手にも信念や考えが伝わり、同じ想いを持つ人との出会いやアプローチのきっかけになることも大きな価値の一つです。

例えば、「こんな理念を掲げている」「こういう行動をしたい」と宣言することで、「自分にも重なる部分があるから一緒にやりたい」という人が関わってきてくれて、従来の枠組みに留まらない新しいコラボレーションが始まっていく。このように理念をつくることは、自分のためだけではなく共感してくれる人と出会うこと、そして一緒に価値をつくることが最終的なゴールなのかもしれません。

自分の理念づくりなどによって自身をブランディングすることは、他者との差別化と捉えられることもあるかと思います。しかし自分らしさは決して差別化するために持つものではないと思います。むしろ先ほどもお話しした通り、同じ方向をめざしている人と出会うために自分らしさが必要なのだと思います。自分が思う自分らしさというものを考えていけば、きっと出会うべき人と出会えるはずです。

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ひとりひとりの個人理念を言語化するセッションの様子

消費するように働くのではなく、投資したいと思える対象を見つける

―――加来さんは起業家・サラリーマンクリエイターとして、新しい働き方をしているように見えますが、これからの働き方では何が必要になると思いますか?

どんなに良い企業に入ったとしても、自分で市場価値を生むことを意識していないと会社の中でも評価されたり、おもしろい仕事がまわってきたりしないのではないかと思います。企業と個人が対等になる時代が来ていて、会社からしてもそういう人と一緒に付き合える文化や仕組み、制度をつくらないと良い人が入ってこなくなるのではないでしょうか。

持つべきスタンスとしては、「バランスをとる」「活かし合う」という2つの感覚が大事だと思っています。「大企業だから」「フリーランスだから」と0か100で考えがちですが、会社で働きながらフリーでも仕事をするというのは一つのバランスの取り方だと思います。責任を果たしながら、最大限選択肢を活かしてこそ、周囲との良い関係性が生まれると思っています。

また、自分の思想や価値観と違うものを、「対立するもの」と考えないということも大事です。例えば僕は「なぜセプテーニグループを出て起業しないのか?」と問われることも多いですが、これもセプテーニグループと僕が互いを「活かし合う」関係にあるからです。僕がグループ企業に所属することで会社の保有する資源にアクセスさせてもらう代わりに、僕のことも活用してください、という考え・スタンスでいます。大企業だからできない、大きい組織だから認めてもらえない、と思考停止するのではなく、自分が何かをやることによって彼らにメリットがあって、同時に自分にもメリットとなるポイントがあるはずです。

そのように利害関係の一致するポイントを探しながら共に歩んでいくことが、共創をしていくうえで大切だと思います。

――これからの働き方や生き方に不安を持っている人へのアドバイスをお願いします。

「自分をすり減らして働いている感じがしてつらい」という声を良く聞きますが、それは自分という限られた資源を「消費」するように働いているからなのかもしれません。地球環境資源の「消費」の限界についても叫ばれる昨今です。今までは自分を守ることに精一杯で、空間も時間も自分のために使ってきたかもしれませんが、これからはいよいよ働き方や生き方においても、理想の未来や地球など、もう少しスケールの大きいことのために自分を「投資」できるようになることが大事になってくると思います。

自分一人の力では乗り越えられない大きな課題も、理念の重なる誰かとパートナーシップを発揮することで必ずや解決に近づけるはずです。そのためにも「本当に自分が大切にしたいことは何か?」について、より大きな時間軸や空間軸で捉え直し、言葉にして掲げることが第一歩になると思います。

――それでも、覚悟が持てなかったり、やりたいことが見つからない人へのアドバイスをお願いします。

「やりたいことが分からない」というけれど、誰しも本当にやりたいことはどんな小さい形でもすでに始めていると思います。今準備を始めていること、誰に何を言われてもやってしまっていること、毎日時間を割いていることを見つめ直してみてはいかがでしょうか。

自分の言葉で語るとき、人はいい声で話す。」とは当社の企業理念なのですが、やりたいことや覚悟は文字通り自身の声に表れます。ただ自分だと気づけなかったりするので、時間を長くともにしている仲の良い友達に「私が良い声で話す時って、何について話している時?」と聞いてみるのも良いかもしれません。

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理念策定のために、企業の覚悟を垣間見るワークショップの様子

自分の意志で自分の人生の選択をするから、つながるべきものにつながる

――サインコサインの企業理念「自分の言葉で語るとき人はいい声で話す。」に対する想いを教えてください。

「声」としているのは、自分の意志と価値観で耳を傾けて、重なるべきものが重なった時には、良い響き合いになっていくと思っているからです。皆が皆に興味をもたなくても良い。皆が同じ方向を向けないのに無理に同じ方向に向こうとすると、色々な生きづらさや悲しさが生まれてしまうと思いますから。なので抽象的ではありますが、「響き合うところが響き合う」という形になっていくと良いと思っています。

――理念の共創を通じて、どのようなことをしていきたいのか、今後の事業の展望を教えてください。

人でも事業でもそのサイズや種類に関わらず、よりシンクロするもの同士でより良いパートナーシップを発揮していくことが、単純に気持ち良くておもしろい世界になっていくために必要であると考えています。

これまでは「理念を掲げる」というニーズに応えてきた側面が強かったのですが、これからは目的意識の重なる対象同士をつなげ、垣根を越えたコラボレーションを起こしていくための多様な価値提供ができるようになっていきたいと思ってます。

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オリジナルブレンドのコーヒーを通じて企業理念や会社のビジョンを伝えています

――前回のゲストの鈴木さんから「自分らしさってないとだめですか?」という質問をいただいています。どう思われますか?

自分らしさはぜひ見つけるべきだと思います。社会の変化が激しく選択肢が増えてきていて、正解のレールが見えなくなったとともに、絶対のルールがなくなってきた世界の中で、誰も正解を教えてくれなくなってきています。国の指導者や影響力のあるメディアが正解を知っているわけでもありません。それぞれの正義があり、何が正しいかは、自分で選ぶしかありません。

唯一の意思決定の羅針盤にできるのは、自分の覚悟や信念や理想でしかないと思います。正解がわからない中で選択するのはとても勇気のいることですが、選択しないことは、言い訳や愚痴など、ネガティブなサイクルしか基本的に生み出しません。一方で、みずからの選択の先で意思決定の質を高めていけば、さらに機会に恵まれてより自分らしく選択できる...というポジティブな軌道に乗ることができます。

他者との差別化のためではなく、自分が何者であるかを自分にも自分以外の誰かにも表明し、選択やコラボレーションのきっかけにするためにこそ「自分らしさ」を大切にしてほしいと思います。

Profile
加来 幸樹 1983年福岡県生まれ。
九州大学芸術工学部卒業。
2006年にセプテーニに新卒入社し、クリエイティブ部門にて様々な企業の課題解決を支援した後、2018年に株式会社サインコサインを設立。
「自分の言葉で語るとき、人はいい声で話す。」を信念に掲げ、覚悟と覚悟の重なりをパートナーシップの動機にするために、企業や個人の理念、ブランドのネーミング、タグラインなど覚悟の象徴となるアイデンティティを共創している。

―次回ゲストへつなぐラリー

――次回ゲストには、株式会社スティーブアスタリスクの太田 伸志さんをお迎えします。太田さんへ、質問はありますか。
加来:取引先、社員、そして家族、さまざまなステークホルダーとのパートナーシップがますます重要になる時代だと思いますが、太田さんが考える「良いパートナーシップを発揮するために大切なこと」は何ですか?
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