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2019.9.26

ビジネスを通じて、ROEとESGの二項対立を越える

  • 青井 浩
    株式会社丸井グループ
    代表取締役社長 代表執行役員 CEO
  • 伊藤 邦雄
    一橋大学大学院経営管理研究科
    特任教授

企業価値の持続的な成長をめぐっては、ROEかESGかの二項対立の議論が起こっています。そこで良質なROEとESGの両立を、新たな統合指標「ROESG」として提唱する伊藤 邦雄氏と、丸井グループ代表の青井が、二項対立を越えるサステナビリティ経営の実現可能性について語り合います。

ROEとESGは、どちらも毒をはらんでいる

青井:当社には「ビジネスを通じてあらゆる二項対立を乗り越える世界を創る」という長期ビジョンがあります。今日は伊藤先生に、ROEとESGの二項対立を越えるというテーマでお話をうかがいたいと思っています。

伊藤:ROEとESGの二項対立を、経営という実践レベルでどう越えるかは大事なテーマです。2014年の「伊藤レポート」では、日本企業の資本生産性の低さを直視し、少なくともROE8%をめざすことを提唱しました。直近では東証一部上場企業の平均ROEがほぼその水準に達しましたが、何ごとにも作用と反作用があるように、ROEを強調することは、ある種の毒をはらんでいます。例えば青井さんのように、ROEの本質を正しく理解して経営に実装してくれた経営者がいる一方で、数字ばかりに目が向き短期的に、時には不正に利益調整を誘導する経営者を生む恐れもあります。ESGの強調も同じく潜在的な毒をはらんでいて、資本生産性の低さの隠れ蓑になる可能性があります。企業は限られた資本・資源を有効活用し、ROEなのかESGなのかという二項対立ではなく、ビジネスという本来の事業活動を通じて両方がハーモナイズするような経営をするべきです。ESGへの投資が資本生産性や収益性に循環していくように、ROEとESGの緊張関係を循環関係にもっていくことが大事なのです。この時、対話が二項対立を解消するうえで重要なツールとなります。青井さんは、まさに対話が共創につながるとされていますが、経営というものは詰まるところ対話なのです。対話とは価値観が違うことを前提に、その違いはどこから生まれてきたのか、濃密かつ持続的なコミュニケーションを通じて違いを埋めていく活動です。私は丸井グループ、あるいは青井さんの経営姿勢に共感するところが多々あります。

時間軸の違いが、二項対立を生み出している

青井:我々は伝統的に小売セクターとして投資家から企業評価を受けますが、「何業なのか」「どう評価すれば良いのか」という質問をよくいただきます。それを考えるのが投資家やアナリストの仕事だと私は思うのですが、ふとまわりを見回すと、何業なのかわからない会社が丸井グループ以外にもたくさんあります。

伊藤:実際のビジネス環境や企業の経営において、一つの業種やセクターでは説明できない状況になってきました。セクターの専門家をめざしてきたアナリストも困っていると思います。では、対話の中で何を訴えるべきか。それは、既存の業種の枠を越えた新しいビジネスやビジネスモデルを構築できる、タレントを持った人材がたくさんいるという点です。新しいことは人間がつくり出すものです。そう考えていくと根源的には、社員がバリュークリエイターであるということを、どう説明できるかということになります。

青井:一方で人件費や人材投資は、会計上は資産ではなく費用に計上されてしまいます。これも典型的な二項対立だと思うのです。投資すればするほど見かけの利益が下がりますが、実際は投資すればするほど長期的には価値を生む。ただ、それがいつどのような価値につながるのかは、説明しづらいところがあります。

伊藤:『会計の再生』を書いたバルーク・レブ氏は会計の欠陥として、研究開発費などの無形資産への投資が費用計上されるがゆえに、経営者が投資を抑制することで経済の不活性化につながる点を指摘しています。確かに中長期の無形資産投資をしているのに、今期の損益計算書の純利益が圧縮されてしまうのは二項対立です。私の考えでは、そもそも短期と中長期という時間軸の違いが二項対立を生むのです。答えは難しいですが、企業は中長期的な経営を行うことを前提に、短期についても精一杯頑張っていることを、いかに説得的に説明できるかですね。

ガバナンスの1丁目1番地はCEOの選任

伊藤:企業が中長期的な説明をする際、4年しかやらない経営者が話をしても、投資家からすれば理想論や建前論に聞こえてしまいます。ガバナンスの1丁目1番地はCEOの選任なのです。

青井:私もガバナンスとは、経営者がどれだけ長くできるかが重要だと思っています。例えばGEは110年間で経営者は10人くらい、つまり1人が10年以上やるのです。日本も長期でコミットできる時間軸を持ったガバナンスを確立する必要があるのではないでしょうか。

伊藤:まったくその通りです。そして長く続けてもらえる経営者には挫折経験が必要ですね。挫折したことのない人は、危機になった時に折れてしまうのです。もちろん、十分な能力を発揮できない経営者には退いていただく仕組みもビルトインしておく必要があります。また、ガバナンスというと他律の話が強調されますが、もう一つ大事なことは経営者が自律のスピリットをどのくらい持っているかです。経営者に自律の姿勢がどのくらいあるのかを、他律でモニターするのです。

青井:私自身が社長になった時、創業者の長男の長男ですから、「20年くらいはやるだろう」と思いました。この在任期待期間は、その後の活動に大きな影響を与えました。経営危機が7年続いた際も、残り10年以上あると考えれば、とにかくやってみようという気持ちが湧いてくるのです。その間は創業者のお墓参りに行くたびに、「俺がつぶすわけにはいかないな。ご先祖さまが化けて出てくるかもしれない」といったプレッシャーが非常にありました。

伊藤:同族的な経営者の場合は、マイクロマネジメントで細かいところまで見ている一方、時間軸がとても長いわけです。そういう二項対立が一人の経営者の中でうまく溶け合っているのです。実は研究室でROAとROICのパイロットテストをやっているのですが、平均で見ると在任期間は10~11年くらいがピークです。構造改革をして、その果実を刈り取る時に自身がいないとわかっていれば、事業構造改革には着手しないですよね。

青井:そのためには、年齢的に早い段階で社長にならないといけないですね。30代や40代で社長になった人たちを見ていると、若いうちから失敗して学び、それを乗り越える時間も与えられるのです。そうでないと、なかなか良い経営者は育たないのではないかと思います。

伊藤:若くして社長になれば、その人は成果を上げたトラックレコードを持って他社に行くこともでき、エコシステムでスタートアップを育成する投資家にもなれる。年齢が上がってから経営者になると、その後の選択肢が狭まってしまうため、「もう頑張らなくてもいいかな」というマインドになりがちです。そのため年齢は大事ですが、これもまた二項対立で、選任基準で年齢という項目のウエイトをどうするかが難しいですね。

ROEとESGの両者を統合した「ROESG」

青井:「2019年はTCFD元年だ」と伊藤先生がおっしゃっていたので、当社も何とか決算発表に間に合わせたいと思い、TCFDに準拠したシナリオ分析を行いました。TCFDは財務と非財務を統合する一つの要になりますか。

伊藤:TCFDにおけるシナリオ分析は定量的だけでなく定性的なものもあって、定性的な方は非財務ですから、財務と非財務の両方を駆使しながら情報開示することにつながっていきます。来年には書籍として成果が出せると思いますが、ROEとESGの両者を統合した「ROESG」を経営でどう実践するかを研究中です。コンセプトはわかっても、経営に実装するのが難しくて未知数のところもあります。二項対立を越えるのは妥協とは違うので、非常に大変です。ベクトルAとベクトルBの二項対立を解こうと思ったら、ベクトルCを立てないといけないのです。

青井:そういう意味でサステナビリティは、一番創造的な領域であって、やりがいのあるおもしろいところだと思います。

伊藤:サステナビリティの裏には進化していくという意思がありますが、ゴーイングコンサーンは単に続くということなので、その二つは大いに違います。日本では会社が続くことに価値が置かれすぎていますが、進化しながら長く続くことがサステナビリティであって、それを支えるのがガバナンスだと思うのです。

対談日:2019年6月11日

伊藤 邦雄
一橋大学大学院経営管理研究科 特任教授1975年一橋大学商学部卒業後、同大助教授、スタンフォード大学フルブライト研究員を経て一橋大学教授。現在は同大特任教授。商学博士。専門は会計学、コーポレートガバナンス論、企業分析・評価論。経済産業省プロジェクト「持続的成長への競争力とインセンティブ~企業と投資家の望ましい関係構築~」では座長を務め、2014年に公表した報告書「伊藤レポート」は海外でも大きな反響を呼び、日本のコーポレートガバナンス改革を牽引。『危機を超える経営』『新・企業価値評価』『無形資産の会計』など著書多数。
青井 浩
株式会社丸井グループ 代表取締役社長 代表執行役員 CEO丸井グループ創業家に生まれ、1986年当社入社。1991年に30歳で当社取締役に、そして2005年より当社代表取締役社長に就任。
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