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2019.9.26

しあわせの可視化を通じて、社員の活力、社会全体の活力を高めていく

  • 矢野 和男
    株式会社日立製作所フェロー、理事
    兼 未来投資本部ハピネスプロジェクトリーダー
  • 小島 玲子
    株式会社丸井グループ 執行役員
    健康推進部長 兼 専属産業医

データによる人間行動の法則性の発見を通じて、ハピネスを科学する矢野 和男氏と、しあわせと成果はつながっているとする当社産業医小島 玲子が、将来のウェルネス経営の可能性について語り合います。

身体の動きから、アプリが「しあわせ」を測定する

矢野:日本人の働き方を変えたいと感じたのは、15年くらい前です。ネット上でのバーチャルなつながりが急速に発達し始めたころで、逆にリアルな人や人との関係がむしろ重要になるのではないかと思いました。社会を良くするための哲学とか社会学とか心理学というのは定性的なので、もっと科学的かつリアルなデータに基づいて社会を良くできないか、という妄想を抱いたのです。それからは自分自身の身体のデータはもちろん、さまざまなビジネス組織のデータを大量に取りました。その中で印象的だったのは、企業の利益向上と、社員が「しあわせ」になるという、一見ベクトルがかなり違うように見えることが、データをきっちり取ってみると、同じベクトルを持つ現象であって、しあわせな人、あるいはまわりをしあわせにする人は業績も良いし、集団全体としてもハッピーだということがわかってきたのです。

小島:私も20年近く複数の企業の産業医をする中で、イキイキとしあわせな人の方が生産性や創造性が高いと実感していました。しかし、しあわせと成果がつながると言っても伝わりにくい。しあわせの客観的な指標があれば良いのにと思っていたところ、矢野先生が開発したしあわせを見える化できる「ハピネスプラネット("ハピ活性度 "を測るアプリ)」を知って大きな可能性を感じました。

矢野:「ハピネスプラネット」は、スマホのアプリなのですが、まわりをしあわせにする、あるいはまわりに積極的にかかわっているということを身体の動きで測れるようにしました。スマホには加速度センサーが必ず入っているので、身体の動きを測れるのです。それを使って、個人として良い状態であるか悪い状態であるかの指標を見ることができますし、組織やチームといった集団の指標としても使えます。丸井さんからは数百人の社員にご参加いただき、このアプリの実証データの収集をさせていただいています。

小島:当社のウェルネス経営推進プロジェクトでは1期1年間、毎回約50人の社員が主体的にウェルネス経営(健康経営)を進めています。今期のプロジェクトでは全社や社外での取り組みを進めており、その中の1チームが「ハピネスプラネット」をこれからどう活用していくかを考えています。

矢野:「見える化」すると、その改善策を考えるわけですが、その方法は一人ひとり違います。したがって、その人が内発的に自分でコミットすることを大事にしています。利用者は、朝、「こういうことに挑戦しよう」と決めます。メニューが7,000個ほどあるのでそこから選んでもいいし、自分でつくってもいいです。そして1日3時間だけスマホをポケットに入れておいてもらうと、その時の身体の動きを測るので、その人がまわりをしあわせにするような動きに挑戦できたか、数値を検出します。

小島:このアプリを用いて、今秋にも「しあわせ度」を皆で高め合う取り組みを行います。ウェルネス(健康)という分野は気軽に皆が参加しやすいので、こうした取り組みは職場や会社の壁を越えて人が集まる「場づくり」になると思います。多様な知恵が交わる場を増やすことが、創造性の高い企業文化を育むことにもつながりますよね。

しあわせな人たちは、身体の動きがばらついている

矢野:この20年くらい、しあわせを科学的に研究することが大変盛んです。しあわせを決める要素には遺伝的な要因など、大人になってからでは変えられないものもありますが、一方で、環境や訓練、経験、学習などによって持続的に変えられることもわかってきています。中でも非常に大事な要素が、小さなことでも良いので日々挑戦を続けることと、良い習慣を身につけることで、特に効果的なのはまわりの人をしあわせにする、あるいはまわりの人のために行動することです。これらを生活の中に取り入れていくのが、大変効果的だとわかってきています。

小島:丸井グループでは管理職に、自身と他者を活力高くしあわせにするための「良い習慣」を1年間かけて身につけ、職場に波及するレジリエンスプログラムを行っています。仕事に意義を見出して自ら挑戦している人は、やらされ感がある人と比べて大変な状況でもチャレンジして乗り越える力(レジリエンス)が高いです。しあわせというとお花畑のようなラクなイメージがあるかもしれませんが、これまでに500人を超える社員に研修で「仕事で一番充実感が高くしあわせを感じたのはいつか」を具体的に振り返ってもらったところ、「難しい状況で、チーム全員で新しい売場づくりに挑戦してお客さまに喜んでいただいた時」といったエピソードが出てくるのです。このように自ら挑戦することを通じて喜びや充実を得られる、しあわせな組織にしたいですね。

矢野:人間のいろいろな活動は、最後は必ず筋肉の動きになるわけです。ですから、身体の動きというのは、人間の一番わかりやすいアウトプットということになります。人間は、座っている間もずっと止まっているわけではなくて、身体を動かしているものです。例えば、しあわせな人たち、あるいはまわりをしあわせにしている人たちは、一度動き出してから止まるまでの長さが短かったり長かったりと、非常にばらついているのです。しかしアンハッピーな人たちは、動き出してから止まるまでの時間があまり変化しない、固定化しているのです。データを見るとそういう特徴が定量的に出ます。おもしろいのは、しあわせな人たちの場合、まわりの人とのコミュニケーションでも双方向が多く、身体も相手とシンクロして動いていることが多いというデータが出ています。良いコミュニケーションが取れているかが、大事な要素なのだと思います。ハピネスに大きく関係しているのは、人間関係とコミュニケーションなのです。

小島:私はこれまで産業医としてのべ5,000人ほどと面談してきましたが、確かに人間関係とコミュニケーションはすごく良いのに調子が悪いと言う人はほとんどいません。

挑戦することは、日本の「道」に通底する

小島:丸井グループには、「お客さまのお役に立つために進化し続ける」「人の成長=企業の成長」という経営理念がありますが、その実現のために、職種変更をはじめ、グループ横断プロジェクトや中期経営推進会議に手挙げ式で参加できるなど、社員がいろいろなことに挑戦できる仕組みと風土があります。

矢野:やはり挑戦しないとだめですね。充実感というのは、挑戦的で自分の強みやスキルを使っている時に現れやすいのです。逆に、あまり挑戦的ではない場合には、余裕とか、下手をすると退屈になってしまいます。挑戦するという行為は、日本の「道」という概念に通底すると私は思うのです。書道でも茶道でも、常に自分の道を切り拓いて、死ぬまで成長し続ける。お茶をたてるという一つの行為から、始めた時には見えなかった季節の変化が見えてきたり、お客さんへの細かい気遣いができるようになったり、死ぬまで成長し続ける。マニュアル通りに動く人材をたくさんつくって使うような大量生産の時代はむしろ例外で、人生百年、最期の日まで成長していく、そういう時代に戻ってきたのではないかと思います。

小島:そうですね。丸井グループに入ると自然と人生の成長の「道」を歩む感じかもしれないと、今のお話を聞いていて思いました。

しあわせを可視化することで、世の中のハピネス度を高める

小島:丸井グループが進めるウェルネス経営は、疾病の予防やマイナスをゼロにすることではなく、よりプラスを生み出すという発想です。すべての人がしあわせを感じられるインクルーシブで豊かなウェルネス経営をめざしています。そこで「ハピネスプラネット」による客観的な指標が活かせるのではないかと考えています。「ハピネスプラネット」では、利他的な行動を取った時にハピネス度が高いとされていますよね。例えば、丸井グループではファイナンシャル・インクルージョンを推進していますが、もしかしたら自分とまわりのしあわせを可視化することで、ウェルネス(健康)経営の分野のみならず、皆がしあわせになるようなお金の使い方を提案することができるかもしれません。そんなふうに丸井グループのビジネスを通じて、世の中のハピネス度を高めることができるのではないでしょうか。

矢野:しあわせというのは伝播しますし、お客さんも含めた社会全体でこういった活動を広げていく手段に、「ハピネスプラネット」を使っていただきたいと思います。企業価値は、これまでも株価などで数値化されていたわけですが、それと人間はわりと分離されていて、社員のデータはキャリアと給与のデータくらいで、表面的なものしかなかったのです。もっと人間の価値を正面から受け止めるような取り組みをやっていきたいと思っています。そうすれば我々の生き方自体が変わっていくかもしれませんよね。

小島:本当にそうですね。マインドセットが変わって、生き方そのものが変わる可能性があると思います。

対談日:2019年6月18日

矢野 和男

株式会社日立製作所フェロー、理事 兼 未来投資本部ハピネスプロジェクトリーダー1984年早稲田大学物理修士卒業後、株式会社日立製作所入社。1993年単一電子メモリの室温動作に世界で初めて成功。2004年からウエアラブル技術とビッグデータの収集・活用技術で世界を牽引。論文被引用2,500件、特許出願350件を超える。人工知能からナノテクまで専門性の広さと深さで知られる。2014年に上梓した著書『データの見えざる手:ウエアラブルセンサが明かす人間・組織・社会の法則』が、書評サイト“ブックビネガー”の2014年ビジネス書ベスト10に選ばれる。工学博士、IEEEフェロー、東京工業大学 情報理工学院 特定教授などを務める。

小島 玲子

株式会社丸井グループ 執行役員 健康推進部長 兼 専属産業医医学部を卒業後、総合病院で内科医に従事。2002年に大手メーカーの産業医に転身。同時に毎週、病院でも心療内科の外来診療を6年間担当。2010年に医学博士号を取得。2011年に丸井グループ専属産業医として当社入社。2019年より当社執行役員に就任。

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