Well-being
2023.10.13

「Well-beingに働きたい!」#4 ~レジリエンス編~

私たちが心身共に健康でイキイキとWell-beingに働いていくためのヒントを、丸井グループの産業医であり、Well-being経営を推進する上席執行役員の小島 玲子先生と、同じく産業医の日比野先生、小口先生にお聞きする連載企画、「Well-beingに働きたい!」。 第4回となる今回は、「レジリエンス」をテーマに、Well-beingな組織づくりのために必要な、ピンチをチャンスに変えるためのヒントを小島先生にうかがいました!

目次

    近年、その重要性に注目が集まっている「レジリエンス」について教えてください。

    「レジリエンス」という言葉自体はいろいろな文脈で使われるのですが、心理学のうえでは「困難や逆境に直面した時にそれを乗り越える力」という風に定義されます。

    なぜ「レジリエンス」が必要とされているのでしょうか?

    時代の変化が早く予想外の困難が非連続かつ不確実に起こる、少し前の言葉で言うとVUCAの時代において、想定外の困難に直面することがこれからますます多くなってきます。そんな時代だからこそ、「困難や逆境を乗り越える力=レジリエンス」の重要性が認識されるようになりました。
    昨日と同じことをやっていれば、明日以降も過去の延長で乗り切ることが可能だった高度経済成長期、大量生産の時代ではなくなり、価値観も多様化し、目まぐるしく変わる状況に合わせて対応する力を身につけなければ持続的な発展は難しいでしょう。
    丸井グループでは、「レジリエンス」を企業が持続的に発展していくために必要な能力と考え、2016年より7年にわたり役員やリーダー層向けにレジリエンスプログラムを実施し、レジリエンス力を高め、ピンチをチャンスに変える組織づくりに取り組んでいます。

    ピンチをチャンスに変えるためのポイントはどんなことでしょうか?

    ピンチをチャンスに変えるためにポイントとなる言葉は「変換能力」です。言い換えるなら、多様な物の見方ができるか、いろんな面からその物事が見えるかがポイントとなります。わかりやすい例えとして、「コップ半分の牛乳」という話があります。

    コップ半分の位置まで入れられた牛乳を見て、「半分しか牛乳が入っていない」とネガティブにとらえるか、「半分も牛乳が入っている」とポジティブにとらえるか。または、「事実は、コップに半分牛乳があるということ。半分しか入っていないとも考えられるし、半分も入っているとも考えられる」とニュートラルにもとらえられます。同じ事象であってもとらえ方によって感情が変わってきます。
    人は物事の認知によって行動が変わるため、そこに着目した心理学のアプローチ方法のことを「認知行動療法」と言います。私の大学院時代の医学博士論文のテーマでもありました。

    「認知行動療法」を活用するうえで重要なことはありますか?

    一見ストレスと思われることでも、本当に100%悪いことしかないのか?そうではなく、別の見方もできるのではないか?という点を、少し立ち止まって考えることが重要です。
    例えば昇進試験を受ける時に、仕事も忙しく追い込まれるような気分になった時、「勉強しなきゃいけないし、仕事も忙しいし、もういやだ!」と悪いことばかりではなく、一息ついて別の見方をすれば「受検資格をもらえるまで評価してもらえたんだな」と感じることができるし、「試験自体は大変だけど勉強することで成長できるチャンスだ」ととらえることもできます。
    いきなりポジティブなとらえ方をするのが難しくても、「大変なこともあるけど、良いこともある」とニュートラルなとらえ方をすることがレジリエンス力を高めるための重要なポイントです。ポジティブに変換するまでいかずとも、物事をバランス良くとらえることは誰にでも試しやすい方法なのでおすすめです。

    ピンチな時ほど、物事を一面的にとらえてしまいがちだと思いますが、そんな時はどうすればいいですか?

    まずは一歩立ち止まるという習慣を自分なりに癖付けるといいと思います。「わぁー!!」となっている時ほど、「今、私はわぁー!となっているな」と思って深呼吸をする、一旦考えるのをやめてリフレッシュする、一晩寝てから考えてみるなど試みるのも良いでしょう。
    そのためにも、焦っていたり煮詰まっていたりする時ほど近視眼的になりやすいということをあらかじめ認識しておき、そういう時は意識的にひと呼吸おいてモードを変えることがレジリエンスのポイントだと思います。
    「今、私はいっぱいいっぱいなんだな」「少し立ち止まってみる必要があるな」と、自分を客観視すること、心理学的にいう「メタ認知」することでレジリエンス力が上がってきます。日々意識して実行していると、だんだんできるようになりますよ。

    丸井グループにおけるレジリエンスの取り組みについて教えてください。

    丸井グループでは2016年に役員・部長職向けの研修として「レジリエンスプログラム」がスタートしました。その後、対象者を管理職全体に拡大し、これまでに約190名のリーダーが参加しました。
    リーダー層からプログラムをスタートさせた理由としては、VUCAの時代において企業として持続的に発展していくために、まずは組織を率いるリーダー層がレジリエンス力を育むことが丸井グループの持続的な発展に重要だからです。加えて、やはりリーダー層はより大きな困難に直面する局面が多いことも理由の一つです。
    また、レジリエンスプログラムには、「リーダー本人だけでなく、そのマネジメントを通じて社員のしあわせを高める」という目的があります。リーダーの取り組みを通じて、組織全体のレジリエンス力を高めることをめざしています。
    最初にお話しした「変換能力」は個人の物の見方・とらえ方のことでしたが、リーダー層には、事業にとっての困難が起こった時にそれを学びや成長の機会ととらえ、立ち直るだけでなくさらに伸長させられるかなど、企業や組織としての「変換能力」を高めていただきたいと考えています。
    困難や逆境に直面した時に、レジリエンス力の高いリーダーがいる組織はそれを成長の機会として転換できるので、メンバー一人ひとりがモチベートされイキイキと活躍できる組織につながります。

    丸井グループで「レジリエンスプログラム」がスタートして今年で7年目ですが、この間に変化したことは何でしょうか?

    スタートさせた当初は、リーダー本人のレジリエンス力を高めるプログラムでしたが、1期、2期とプログラムが進む中で「リーダー層が集まっているからには、どうやって組織全体のレジリエンス力を高められるか」を中心に話し合いたいという意見がでてきたことを受け、3期からは「自分と組織、家族をしあわせに」という考えに広がってきました。
    またレジリエンスを高める取り組みを継続的に行いたいとの要望から、7期から3カ月ごとに参加者で集まって学びを深めるセッションが始まりました。
    8期からは、リーダーが実際に体験した困難や、マネジメントを行ううえでの困りごとを対話して学び合う「事例検討会」がスタートしました。

    なぜ事例検討会を行なうことになったのですか?

    管理職同士が学び合う場が、日ごろないからです。困難な状況が過ぎるとつい「やれやれ」となってしまい、その事例を振り返ってとことん学び、互いに共有する場がないことがほとんどです。管理職の皆さんはそれぞれにさまざまな困難を経験していますが、迷ったり悩んだりしたとしてもせいぜい同期の飲み会で愚痴を言い合うくらいで、本質的に学び合ったり、相談し合う機会はほとんどなかったようです。そこで、「この失敗例から学べる本質的な課題は何か」を話し合います。また、「部下のモチベーションを高める工夫」など、管理職同士で情報交換を行って、学び合い、高め合うことに取り組んでいます。

    レジリエンスプログラムに参加者された方からはどんな反応がありましたか?

    失敗事例や困難だと感じた事例を共有して、日常の業務では体験できない思考を経験することで組織や個人の成長につながったという声や、理論と実践を組み合わせることで学びが加速したなどの声をいただいています。
    当初のプログラムは、医学的・心理的学的な知見など産業医として提供できる知識を共有して、それを習慣化する形でしたが、「事例検討会」などの実践とあわせてリーダーが互いに学びを深めるプログラムへと、参加者の皆さんが進化させてくれました。

    単に受け身なのではなく、自分たちでより良いプログラムになるよう共に創り上げるというのが丸井グループらしさを感じますね。

    そうですね。丸井グループの共創の取り組みの一つだと思います。

    7年にわたる「レジリエンスプログラム」によって、丸井グループに変化はありましたか?

    レジリエンスプログラムだけではなく、ほかの取り組みとの複合的な結果だと思いますが、「事例検討会」をはじめとする学び合う組織風土を通して、多様な考え方をできるリーダーが増えることで一人ひとりの主体性を高める、多面的な物の見方を活かす組織風土につながっていると思います。
    全社調査では、「職場において一人ひとりが尊重されていると感じる」と答えた社員は2012年ごろには28%程度でしたが、2022年には66%まで増加しました。
    自分が尊重されていると思える背景には、職場の上司の日ごろの振る舞いが大きく影響します。それぞれの意見を尊重し、一人ひとりが主体性を持って活躍できる組織をマネジメントできるリーダーが増えていると言えるのではないでしょうか。

    私自身部下として、上司がレジリエンスプログラムを受ける前と受けた後で雰囲気やかけられる言葉に変化を感じたことがあります。それまでより「私の存在を認めてくれている」と感じる場面が増えたように感じ、自信やモチベーションにつながりました。

    プログラムはきっかけにすぎませんが、リーダーが多様な物の見方ができると、部下やチームの強みにフォーカスすることにつながるので、実際に部下として変化を実感できたのかもしれませんね。

    今後、レジリエンスの考え方が世の中にもっと広まっていくには、どんなことが必要でしょうか?

    少しずつレジリエンスプログラムの取り組みも広がってきていて、現在では国内上場企業8社、累計社員数34万人規模にまで拡大してきました。昨年からは5社合同で会社を超えたレジリエンスプログラム交流セッションもスタートし、丸井グループからも参加しています。
    レジリエンスの取り組みは企業間で競争するようなことではないので、企業間でも取り組みを共有し対話を行うことで、社会全体で組織をしなやかに強くしあわせにしていく取り組みを広げていきたいと思っています。


    今回は、「レジリエンス」をテーマに、丸井グループの産業医であり、執行役員の小島 玲子先生にお話をうかがいました。次回のWell-beingに働きたい!もお楽しみに!

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