働き方
2022.10.28

【マルイノホンネ #1】職変って?自己と組織の革新につながる人事システムの成果を語る

丸井グループではグループ共通の人事制度のもとでグループ会社間を異動する「職種変更(職変)」制度を設けています。別会社に転職するように全く異なる職種・職場に異動し、新たな業務にチャレンジすることで社員の成長を促すことなどを目的で、2022年4月時点では、全グループ社員の77%が職変を経験しており、他社にはあまりない独自の人事制度です。社内では「職変」と呼ばれ、人事異動における当たり前のシステムになっています。 そこで今回は、職変を経験した若手からベテランの社員4名に実態や職変を経験したからこそ思うことを語ってもらいました。

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職変のきっかけと実態

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田口「グループ間職変」をテーマに、実際に職変を経験している大熊チェルシーさん、牧野木綿子さん、広瀬拓也さん、松本真由美さんの4名に職変で経験できたこと、感じたことなどを聞いていきたいと思います。まず皆さんの自己紹介ならぬ職変歴を教えていただけますか。

大熊:私は入社2年目で、丸井グループサステナビリティ部に所属しています。現在の部署には入社後半年間の店舗でのOJTを終えて配属されました。新入社員は最初の配属では、お客さまと接する店舗に配属されるケースが多いのですが、私の場合は入社から半年で職変したことになります。

牧野:丸井グループがスタートアップ企業やD2C企業との協業を進める共創投資を担当する共創投資部と、連携するD2C&Co.のお仕事を兼任しています。私は入社後、北千住マルイで売場と販促を2年半担当した後に本社で2年ほど店舗プロデュース部を経験して、現在の部署に職変して3年ほどになります。

広瀬:現在、アニメ事業部に所属しています。入社して初めての所属は、有楽町マルイでした。その後、丸井の本社でマーケティングやEC事業に携わり、丸井グループの人事部に職変しました。その後エポスカードの事業企画部、そして現在の部署に職変しました。

松本:丸井グループのロジスティクス部門を担うムービングの施設物流本部に所属しています。丸井には1989年に入社し、これまでは店舗での販売職が長かったです。レディスアパレルのエリアマネジャーや営業、エポスカード担当の業務も経験した後、1年半ほど前にムービングに職変しました。

田口広瀬さんは3度、松本さんは2度、そしてほかの皆さんは1度職変を経験しているのですね。職変するまでの経緯と職変が決まった時の気持ちを話していただけますか。

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大熊:大学入学前からサステナビリティについて興味があり、入社後の配属先の第1希望としてサステナビリティ部を申告していました。ただ新入社員の最初の配属先は店舗がほとんどだと聞いていたので、実際にサステナビリティ部兼ESG推進部での配属内示が出た時にはとても驚きました。たまたまその日が自分の誕生日だったのですが、「とんでもないサプライズだな」と思って(笑)。ワクワクしましたが元々プレッシャーにも弱いタイプなので、会社からの期待みたいなものを感じて不安な気持ちもありました

広瀬:私は、今の部署には元々漫画やアニメが好きだったこともありますが、エポスカードにいた時に感じた課題をきっかけに職変を希望して叶えられたという形です。エポスカードは、店舗での入会割合が下がっていて、ネットを利用した会員拡大戦略の話があったりと、フィンテック部門の中でマルイの存在感が薄れている印象を受けて。お客さまがカードについて気軽に相談できる店舗の強みをもっと活かして連携する戦略があるのではないかと、歯がゆい思いを抱いていました。

アニメの分野であれば、丸井グループが掲げている小売・フィンテック・未来投資の三位一体のビジネスモデルいずれにもかかわれます。来店につなげるイベント展開も可能ですし、カードにキャラクターデザインが採用されたり丸井が関連作品・企業に投資している実績もあります。「丸井グループの強みである3つの事業の連携に絡める」と思いました。

実は人事部からエポスカードに職変した際にも、人事担当者として足りない部分を補強しようと思ったのがきっかけでした。事業をきちんと理解していないと、事業に適合した人材を配置することはできないと考えたからです。フィンテック部門は世の中の注目も上がってきていて丸井グループとしても力を入れる事業だったので、「フィンテック事業をまず正しく理解したうえで今後の人事戦略立案に活かせれば」と思ったんです。

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松本:私は店舗勤務が長かったのですが、周囲で早期に職変してやりがいを持って働いている人たちを見てきているし、「行ったことのない世界に飛び込みたい」という気持ちは持っていました。店舗で働いている時に、同僚や先輩方で職変した人たちの話を聞いたり、実際の姿を見て、ムービングという物流関連の仕事に興味を持ち、どんな部署や業務があるのかリサーチして職変を希望しました。

職変する前は、職変を経験していないことで周りから置いてきぼりにされているような不安感を持っていました。実際に職変が決まってからは、新しいチャレンジにワクワクする一方で、慣れ親しんだ業務から変わることへの心配のほか、「自分の経験値を活かしていけるだろうか」という不安も生まれました。

牧野:私は、皆さんとは違って共創投資部には当時希望していたわけではなかったため、完全に想定外の職変でした。驚いたと同時に、「入社当初から描いていた自分のキャリアプランからそれる形になるのではないか」という不安を感じました。元々丸井グループには店舗づくりをしたいと思って入社したこともあり、店舗プロデュース部で経験を積みリーシングに携わったり建築部にも行きたいと思っていたので、「今後丸井グループの中でやりたいことができるようになるだろうか、当初希望していたキャリアルートにまた戻れるだろうか」と先のことまで心配してしまいました。

また共創投資部は公募で集まったメンバーがいることも知っているので、「投資関連の業務がやりたい」と思っているメンバーに囲まれながら自分が追いつけるかどうかという点も不安でした。

田口皆さん、前向きにとらえながらも不安な気持ちは少なからかず抱えてたんですね。実際に職変してみて感じたギャップや苦労したことなどは、ありますか?

大熊:社会人経験のない状態でいきなり本社勤務だったので、2,3カ月ぐらいは打ち合わせ一つでもガチガチに緊張して、先輩方からも心配されました(笑)。OJTを経験した店舗と比べても本社は全然雰囲気が違っていて「自分はここでやっていて良いのだろうか」と思ったりして。

でも周囲から「新入社員で配属されているのだから、焦ることないよ。大熊さんの率直な意見を言ってくれれば良いよ」と言われて、「自分らしさを発揮していこう」と気持ちを変えました。OJTの時に周囲から「どこにいても突出する人は周りに染まらない。自分らしさを持ち続ける人が活躍する」とも言われていたので、入社1年目である私自身の等身大の意見を伝えたり、「まずは行動する」という元々の強みも発揮するように意識しました。

私は大学で異文化コミュニケーションを学んでいたこともあり、丸井グループではそういった分野への取り組みが進んでいるというイメージが強かったのですが、いざ企業としてサステナビリティ経営を進める場に来てみると、ビジネスモデルに組み込みながら社員一人ひとりが業務を通じてサステナビリティへの意識を持つように働きかけなければいけない。「慈善活動とは違うんだ」という点にギャップを感じましたね。

きちんと利益が出ないと、長期的に取り組むことはできない。その一方でサステナビリティはすぐに結果が出るわけではなく長期的な視点が重要な分野で、そう考えるとサステナビリティがビジネスとして成り立つように取り組むことが最短の課題解決につながるのではないか、と今では思っています。

牧野:私も未知の分野だったので、商談するにも相手に言われている言葉も分からない状況で、会社のお金で投資することに責任も感じて戸惑いと悩みだらけでした。でも案件などを進めていくうちに、部署の仕事はいろいろあり投資への熱意のほかにも大切なことがあることや、少人数の部署なので一人ひとりの意志が尊重されることが重要だと考えられるようになりました。そこで「他のメンバーが苦手な業務を自分が頑張って取り組もう」と気持ちを方向転換し、例えば数値管理をしっかりと進めたり皆が効率的に働ける仕組みをつくるとか、自分にできる役割を思いつくようになりました。

自分自身なぜ希望していない共創投資部に職変になったのか、理由は聞かされていなかったのですが、思えば店舗プロデュース部時代にP/Lを作成したりと、数字を追ったり管理する業務を手掛けていたので、そういった経験が活かせると判断されていたのかもしれません。今の部署に来て、自分自身もそういう業務が好きだし得意なんだということにも気づきました

松本:ムービングは、昔からいたベテランの社員が多い印象でしたが、丸井の小売部門で活躍していた社員が異動しているケースが多く、社内に知り合いがたくさんいました。ここは、長年小売部門で働いてきた経験が想像以上に活かされて、プラスの意味でギャップでしたね。

広瀬:私はエポスカードに職変した時が一番大変だったと思います。ちょうど職変と同時に昇格もしていたので、ほとんど未経験の企画業務の仕事をこなしながらマネジメント能力も求められる環境だと思っていたのでプレッシャーを感じました。最初の半年間はインプットするのに精一杯で「何もアウトプットにつなげられていない」と苦しい気持ちが続きました。

そこで、とにかくアウトプットにつながりそうなプロジェクト案件やデータをまとめるような業務があれば自分から手を挙げて引き受けていました。そうしていろんな業務に着手するうちに、どんどんフィンテック部門に関する知識が身につき、現状が把握できるようになり不安が解消されていきました。

職変が自身や業務にもたらした影響

田口職変でぶち当たる壁、ブレイクスルーのきっかけと、それぞれ内容は異なるけど皆さんいろいろな体験を積まれてきていますね。「職変をしてプラスになった」と感じることはありますか?

大熊:入社後2,3年は接客の仕事になると思っていたので、希望を出していたとは言えイメージもできなかった本社勤務に最初は驚きました。でもサステナビリティ部での経験を経て、今後自分が全く想像していなかった部署に配属になったとしても「絶対に成長できる機会になる」と考えられるようになれたと思います。ビジネス対話も苦手だったけど、今ではきちんと自分の意見を職場で出せるようになったりと、確実に職変前と変化しているのを感じています

牧野:やはり自分の適性に気づいたことですね。あと、店舗プロデュース部での経験を共創投資部で活かしながら仕事を進めることで「部門を越えて会社に貢献できた」と実感できたのは大きいです。

共創投資部は元々投資をどんどん進める実務部隊で構成されていて、投資の実務と管理系の仕事を各々が両方手掛けている状況でした。そこに私が加わり、自身の経験を活かすために管理系の仕事をまとめて担当する役割を買って出た感じで。1年ぐらいずっと要望を出してそういう体制になったのですが(笑)、結果的に実務部隊も投資や共創の業務に集中できるし私も経験の長い前の部署時代からの経験を活かせているのでとてもプラスになったかと。

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広瀬:先ほど話したように、エポスカード時代は「自分には何もできていない」と思う期間もあったけど、行動していくことで状況が変わっていきました。「自分がアクションさえ起こせば、どんな環境でもやっていける」という自信を得ることができました

昔は異動の初日に会社に行くのにドキドキしていましたが、今は変化そのものを恐れなくなったし「前向きに取り組めばやれる」と思っています。

田口では、最後に職変に対する考えも含め、今後の自身のキャリアの希望を教えてください。

大熊:学生のころからダイバーシティ&インクルージョンに関心を持ち、接客のアルバイト経験もあるため「自分は人に興味があるんだ」と実感しています。

今まさにダイバーシティ&インクルージョンの分野を担当したり社内の制度や働き方を考える仕事を進める中で人とかかわれることをやりがいに感じていて、将来は一番社員と接する業務と考えられる人事部門に職変できればと考えています。これまでは「店舗にかかわる仕事に長く就きたい」と思っていたのですが、今の部署での業務を経験して考えが変わりました。

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牧野:職変制度が充実している点が自分の丸井への入社動機の中でも大きいウエイトを占めていて、元々「いろいろな経験を積んだ方が提案力や応用力がアップする」と思っていました。現在は兼ねてから志望していたお店づくりに対する夢も持ちつつ、今後は職変の対象としては今の部署の経験を活かして会社全体の数値に関する業務に携われる経営企画やIR部門を経験してみたいと考えるようになって、自分の中のキャリアの選択肢が拡がりました。特にIR部門は丸井グループ全体のことをステークホルダーに深く伝えられる分野であり、全体最適につながる視点を身につけられる場であると思っています。

広瀬:私は逆に、昔は「一つのジャンルを極めたい」と思っていました。でも今は、やはり職変によって視野が広がる経験も積めたのと同時に、適応力が身についたと思います。特に適応力は、変化が激しく、先の見えない時代に重要な力でこの制度の大きなポイントだと感じています。

今後は、これまでのキャリアで経験していなかった新規事業を生み出す分野にかかわりたい思いがあります。以前社内での新規事業に関するコンテストにエントリーしたことはあるのですが、結果は芳しくなくて。小売部門はなかなか大きな事業が生まれていない状況でもあり、魅力的な新規事業を立ち上げから軌道に乗せていくまでのプロセスにかかわりたいですね。

そして最終的には再び人事に戻り、それまでの経験を活かして人事・組織戦略を進めていきたいです。人事への最初の職変も元々希望していなかったけど経験してみると楽しかったし、職変しなければ「自分はこの仕事が好きだったんだ」と気づけなかったですね。

松本:職変の希望は叶う場合もあれば、そうでない場合もあります。自分の希望を持ちつつ、希望していない部署に職変しても「与えられた機会なのだ」とポジティブに受け止めて、そこに自分の欠けている部分があればチャレンジ・トライアルして変えていけるチャンスなのだという気持ちを、高く持っていたいと思います。

丸井グループは人とのつながりがカギであり、仕事で出会う人とは必ず何かの縁があると感じています。職変は自身の強みや弱みに気づくとともに、職域や自身のかかわるコミュニティを広げるチャンスでもあると感じています。

田口職変には各々がいろんな気づきを得ながら新しい職種に挑戦することで、業態の固定概念を打破して組織にイノベーションを起こしたり新しいアイデアが生まれるほか、各自の変化への対応力アップへのきっかけにつなげる目的があります。今日は実際に皆さんが成長を実感でき、キャリアプランの広がりや事業への貢献といったことにもつながっているとあらためて知ることができました。皆さん、本日はありがとうございます。

【人事担当者に聞く!職変のミソ】

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田口 遼

座談会のファシリテーターもしていただいた田口さんに、職種変更についていくつかおうかがいしていきたいと思います。

- そもそも職種変更はどういったねらいで行っているのですか?

組織変革やイノベーションが起こりやすい環境をつくるためです。

一つの職種での経験が長くなると、その職種ならではの 固定概念にとらわれてしまいがちになりますが、職種変更の経験を通じた個人の気づきが、これまでの当たり前や思い込みを捨てるきっかけとなります。

また、さまざまな会社や部署を経験することで、変化への対応力を高めることができ、社員一人ひとりの成長はもちろん、職種変更者を受け入れる側にも良い変化を与えます。

グループを横断して異動をくり返すため、グループ間に横串を通すことにもつながり、グループ一体経営がさらに強化されます。

- あまり他社ではこういった仕組みは聞きませんが、なぜグループ間職種変更ということができるのかを教えてください!

人事制度が全社統一であることが大きな理由だと考えます。

特に評価制度においては、会社をまたぐ異動をしても、共通の「バリュー(経営理念の実現に向けた大切な価値観とグレードごとの人物像に基づく評価)」で評価をされ、賃金テーブルも全社で共通となっています。会社が変わったとしてもめざすべき人物像、評価項目・基準は変わりません。

経験やスキル・ナレッジにとらわれない評価制度となっていることが、一人ひとりが安心してチャレンジできる後押しにつながっていると思います。

- 今後より良い仕組みにしていくために、どんなことに取り組んでいきたいですか?

現在は、自己申告や上司のヒアリング内容、経験職種等の検討材料をもとに、本人に寄り添った配置をおこなっています。今後は、社員一人ひとりの定量的なデータに基づき、一人ひとりの希望を叶えてやりがいにつなげていきたいと考えています。

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