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丸井グループでは、今後の経営にとって重要となるさまざまなテーマを考える場として「中期経営推進会議」をほぼ毎月開催しています。 今回は、2021年10月に「未来を実装する ~インパクトをもとにビジネスをするための思考と技術~」というテーマで行われた、東京大学のスタートアップ支援プログラム「Found X」のディレクターを務める馬田 隆明氏の講演の内容をお伝えします。
POINT
・社会実装には、テクノロジーと社会の両輪を一緒に変えることが必要
・デマンド*(注釈)を顕在化するために、理想とインパクトを提示し、課題を提起することが大事
・多くの資本・資源・事業機会チャンスを得るためには、良いインパクトをめざすところから、始めよう
・共感や納得を得ながら他者を巻き込んでいくことが、社会を変えることにつながる
デマンド*(注釈):需要・欲求のこと
「未来を実装する ~インパクトをもとにビジネスをするための思考と技術~」は、ビジネスにおけるテクノロジーの社会実装はどうすれば進むのかをテーマにした書籍です。書籍の中では、実装に関する5つの要素、基盤としての「デマンド」と「インパクト」、実現手法としての「リスク」と「倫理」、そして、「ガバナンス」と「センスメイキング」を紹介しています。
青井のおすすめ書籍Book Loungeでも書評をご紹介しています。
https://www.to-mare.com/bl/2021/010.html
「デジタル技術の社会実装には何が必要なのか」を言い換えると、「会社や社会のDX(デジタルトランスフォーメーション)には何が必要なのか」ということです。
1900年前後では、蒸気から電気への転換が行われようとしていました。この転換には、ティムハーフォードという論者によると、だいたい50年ぐらいかかったのではないかと言われています。当時は、蒸気エンジンを電気モーターに変えることで、新しい電気をうまく使えるのではないかということが期待されていました。ただ、実はこの転換だけではうまくいかなかったというのが、結論でした。
私たちはイノベーションというと技術的なものを思い浮かべがちですが、それだけではなく、補完的イノベーション、制度や組織、仕事のやり方の刷新などの積極的なイノベーションが必要だと言われています。ある意味、社会を変えてテクノロジーを活かすことも同時に行わなければ、本当の意味でテクノロジーを活かすことができないと言えます。
したがって、技術的なDXだけではなく、会社や社会の仕組みのDXもしていかなければ、本当に良い社会実装は行われません。社会を変えるという目線が、この10年あまり注目されていませんでしたが、2015年以降、社会を変えることが大事だと気づくスタートアップ企業も増え、そういったスタートアップ企業が成功していると私は考えています。
一般的に、ニーズがなければ技術は受け入れられないと言われていますが、成熟社会では相対的に切迫したデマンドや課題があまりないことが現状です。しかし、課題をインパクト、すなわち理想と現状のギャップだととらえると、理想をきちんと掲げることで、課題を生み出していけるのではないでしょうか。スタートアップ企業は、良い理想をうまく掲げることで、さまざまな仕組みを変えたり、周囲を巻き込んだりしてビジネスを進めていると感じています。また、社会起業家は、社会の中で理想をきちんと提示する、あるいは、消費者が気づいていない理想を一緒に固めていき、現状との差を明らかにすることで、新たな課題・デマンドを見つけています。課題発見も大事ですが、同時にインパクトをしっかりと定めて課題を提起することで、成熟社会における新たなデマンドを生み出せると思っています。
「未来を実装する ~インパクトをもとにビジネスをするための思考と技術~」のメッセージの一つが、「インパクトから始めよう」ということです。この書籍でインパクトとは、あるべき社会像のことです。ただ、インパクトや理想を描くだけでは、実現に結び付きません。自分たちがどのようなインパクトや理想を掲げてたどり着こうとしているのかを提示して、説得し社会を巻き込まないと社会実装には結びつきません。それだけではなく、社会実装の方法論としてのインパクトの重要性は、資金面でも現れています。2015年以降は特に、SDGsなど社会課題解決めざすCSV経営を行う会社に資金がつくことが顕著な流れになりました。公共的なインパクトを掲げる世界的に良いことをやっている企業が資金面でも便益を得るようになっていくことで、インパクトが資本政策に関わり、事業戦略につながり、経営戦略自体に大きな影響力をもつようになっています。また、これは資金面だけではなく、人材についても同様です。Z世代の人たちは、「良いことをやっている企業に就職したい」と思っているなど、人的なリソースに関しても、インパクトやパーパスに徐々に影響されていると思います。良いインパクトをめざす企業は多くの資本・資源にアクセスできるようになり、より多くの事業機会を手にします。そのチャンスを得るためには、必ず成功するわけではないですが、インパクトから始めることが大事だということです。
センスメイキングは、元々は「Make Sense(納得感、腹落ち)」から由来しています。コミュニケーションといってしまうと、主体は発信者側ととらえがちですが、そうではなくて受け手の社会に生きる皆さんを主体にしたいということで、センスメイキングという言葉を使っています。社会を変えるなら、課題、現状、インパクト、解決策、リスクと倫理、ガバナンス、全てに対してセンスメイキングをしなくてはなりません。
センスメイキングの手法には、いくつかのツールがあります。例えば、ソフトウェアの試作品をつくることも手法の一つです。最近では、デジタルだからこそできるオンライン上の参加型のプラットフォームを用意し、データをうまく活用することも社会実装の一つの方法だと思います。デジタルというと、ついデータに注目しがちですが、まずは、参加型のプラットフォーム上で体験や対話をしっかりとすることがセンスメイキングには重要です。
良いインパクトを掲げたうえで、センスメイキングの手法を使って、共感や納得を得ながら巻き込んでいくことが、社会を変えることにつながると思います。それと同時に小さくても成果を残すことが重要です。成果を出すことが、信用や信頼につながり、好循環をつくりだすことができます。
技術的なイノベーションだけではなく、補完的なイノベーションを起こして仕組み全体を変えなければ社会実装はできません。その際にはインパクトが非常に大切です。そうして社会を変えて、テクノロジーを実装していくことが非常に大事なポイントです。これから足元でいろんな変化が起こると思います。その中で、本当の意味・インパクトを示して、その意味をつけていくのが、インパクトから始める、ということだと思います。理想や課題を一緒に固めていく、気づいていない方々に一緒にセンスメイキングしていくことをきちんと日々やっていくことが、おそらくインパクトをビジネスにするために必要な思考・技術だと思います。
University of Toronto 卒業後、日本マイクロソフトを経て、2016年から東京大学。東京大学では本郷テックガレージの立ち上げと運営を行い、2019年から「FoundX」のディレクターとしてスタートアップの支援とアントレプレナーシップ教育に従事する。スタートアップ向けのスライド、ブログなどで情報提供を行っている。著書に『逆説のスタートアップ思考』『成功する起業家は居場所を選ぶ』『未来を実装する』。
■主な著書
未来を実装する―テクノロジーで社会を変革する4つの原則|英治出版|2021/1/24
「 #未来を実装する 」の著者、馬田隆明さん(@tumada)に、ビジネスにおけるテクノロジーの社会実装はどうすれば進むのか?についてお話しいただきました
— この指とーまれ! (@maruigroup) March 11, 2022
インパクトの必要性や周囲の人の巻き込み方など、まさに未来を実装していくためのヒントを解説していただいていますhttps://t.co/9j0BRm9oSb
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