この指とーまれ! by MARUI GROUP

Talk Forum
2020.8.21

将来世代と社会を変革する―30年後見据えた経営を

  • 青井 浩
    株式会社丸井グループ
    代表取締役社長 代表執行役員 CEO
  • 永田 暁彦
    株式会社ユーグレナ
    取締役副社長 ヘルスケアカンパニー長

ESG経営の推進に向けて、当社代表の青井が各分野の達人にESGの神髄を聞く連載企画が『日経ESG』に掲載されています。
第2回目の達人は、人と地球の未来のために社会問題に取り組む(株)ユーグレナ 取締役副社長の永田 暁彦氏。昨年、17歳の女子高校生を初代CFO(最高未来責任者)に任命し、サステナビリティを地で行く同社がなぜ若者を会社に迎え入れたのか、お話をうかがいます。

社会に必要とされながらも、大企業ができていないことをやるのもベンチャーの仕事

青井:ユーグレナさんは今年1月31日に、バイオ燃料製造技術の国際規格ASTMの新規格を取得したと発表されました。今回のステップはどんな意義があると感じていますか。

永田:世界では環境対策のためにもう20万回、バイオジェット燃料を使ってお客さんを乗せて飛行機が当たり前に飛んでいますが、日本では1回も飛んでいません。規格を取得して、閉鎖的だった燃料産業のシェアをバイオの切り口で取りに行きます。ベンチャーは、社会に必要とされていながらも、大企業がなかなか手を出せないことをやるのも仕事だと思っていて、その1つがスタートできそうです。

青井:なるほど。今、ESGやサステナビリティの観点から世の中を見た時、気候変動と言っていたのが気候危機に変わったり、この前のダボス会議でメインテーマがシェアホルダーキャピタリズム(株主資本主義)からステークホルダーキャピタリズムに変わったり、急速に変化しています。永田さんはどのようにご覧になっていますか。

永田:気候変動や気候危機がここまで急激に話題になるような変化点って何があったかというところがポイントでしょう。私は生活者の認知変容だと見ていて、それが大きく動いたのがこの1年だったと思います。生活者の認知変容は、「体感」と「評判」の2つで起こります。例えば、昨年は大型の台風が上陸して、今年は冬でもすごく暖かいといったことが体感です。評判というのは、スウェーデンの環境活動家であるグレタ・トゥーンベリさんを中心に声が上がり、それがメディアに取り上げられ、人に伝わるようになっていることです。今、環境を意識すべきだよねと言うほうが、人々にとって良い状態になっています。こういう人々にフックが掛かっている状態の時に何をするかがとても大切です。例えば、今だと通しやすい政策はたくさんあるはずで、そういうのを一気に畳みかけるタイミングだと思っています。

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将来を自分事化できている人を経営の意思決定に入れる

青井:このタイミングを逃さず畳みかけようというところから、CFO(Chief Future Officer:最高未来責任者)の発想も出てきたのでしょうか。

永田:きっかけはそれもありました。もともとCFOは、18歳以下の意見を経営に取り入れる仕組みをつくるところがスタートでした。将来の大人、将来を自分事化できている人を経営の意思決定に入れていくということですけれど、一番最初のきっかけはグレタさんの動画を見た時に、喋り方や話している内容よりも、若者たちが声を上げていること自体に自分たちとの世代の差を感じたことです。自分たちも、シロクマが氷の上に乗っている温暖化を象徴する写真を子どもの時に見ているはずです。だけど自分たちは声を上げていないことを考えると、今のSNS(交流サイト)など情報の流動性がある中で10代の意見が世の中に出るのはすばらしいなと思ったのです。一方で、日本の人と話していると、あれってやっぱり欧米のことだからねと思っている印象がありました。ですので、「日本にもいるんじゃないか」と思って、CFOの企画の前に小学生の子どもたちにインタビューをしました。

青井:ユーグレナさんは、微細藻類のユーグレナの研究開発自体を着々とやっていくことで環境やサステナビリティに貢献できるのに、なぜあえて一歩踏み出してCFOを募集されたのですか。

永田:例えば、私たちにはバイオ燃料の開発・普及を推進していく中でいろいろなステークホルダーがいます。空港運営会社もいれば政府もいます。航空会社や給油会社、検査会社もいますが、最初は「(バイオ燃料は)危ないし、利益が出ない。やる意味があるの?」というところからスタートする人が多かったです。今は、利益が出ないからやらない時代ではなくなってきていると思います。なぜ「利益が出ない」という判断基準になるのだろうと考えた時に、30年後を自分事化できない人がとても多いなと。つまり、今の仕事は明日や来週の自分のための仕事で、自分の30年後のプライオリティーは上がらない。極端に言えば、利益で(環境を保全して)穴埋めをするCSRみたいなものが多い。自分たちの会社がそうあってはならないという想いから、CFOの登用にいたったところもありました。

青井:小澤(杏子)さんがCFOに就任されてしばらくたちましたが、どんな活動をされているのですか。

永田:CFOのおもな仕事は会社が未来のためにやるべき、または変化すべきことを決める仕事です。例えば2000何年までに会社のプラスチック使用料をゼロにしましょうとか、彼女がやると決めたら私たちはやることを前提にしています。そのために何をやっているかというと、8人のサミットメンバー(CFOに応募した人の中で評価が上位のメンバー)がいて、先週は週3~4日、夜の9時から3時間くらい激論を交わしていました。このプランをやりますと年内に発表する予定です。さらに、それを中期経営計画に盛り込んで、実際に変容していくのがCFOの業務です。ただこの前、小澤さんに「CFOや会社は、学校などと違う」と伝えました。何かというと、9人の多数決に従うんですね。それって学校なんですよね。会社は違うと。民主主義のようで民主主義じゃない。「CFOは決める仕事で、ユーグレナも400人がAと言っても、私と社長の出雲がBと言ったらBになるのが会社なんだ。なので、私はそれぐらいCFOを信任しているので、決めていいんだ」と言いました。

青井:変わってきたと感じることはありますか。

永田:まず、先陣を切ってCFOを導入した会社としての立ち居振る舞いがあると思うんです。言行一致でなくてはならないので、直接的ではないにしろ、会社の経営の意思決定に良い意味でプレッシャーがかかっています。世の中の人に「このCFOって良いよね」と言われている会社がやってはいけないことは想像の範囲でいっぱいあるじゃないですか。その時点で良い方向に規制がかかっている感覚はあります。これから、CFOを選任した効果がより出るだろうなと思っています。例えば、私と出雲が、今、販売しているペットボトル飲料は全部撤退だと言ったら、当然、営業チームは売上が何割下がると言います。けれど、もうCFOと一緒に未来のために決めたことだと言えば、皆がやろうという気持ちによりなりやすくなるんじゃないでしょうか。すでにその実感はあります。

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暗い未来を描く子どもに衝撃

青井:先ほど、小学生の話を聞いたことがCFOを募集するきっかけになったとおっしゃいました。実は、当社が昨年発行した「共創サステナビリティレポート(VISION BOOK 2050)」を作成する時も、似たような経緯があったのです。僕は子どもが2人いまして、今から6年くらい前、下の子が小学校5年生の時に授業参観に行ったのです。国語の時間に「私たちの未来について」というテーマでパネルディスカッションをやっていました。おもしろいなと思って見ていたら、ほとんどの子が「僕たちが大人になっているころには、地球は破滅していると思います」とか、「私たちの未来には人類は核戦争で滅亡していると思います」とか、そういう話をあっけらかんと言ってけらけら笑っていて、すごく衝撃を受けました。たぶん、先生はもうちょっと明るい未来について語る想定だったと思うのです。僕らの子どものころって、そういう核戦争とかの不安や危機感もなくはなかったけれど、基本的に未来って良くなっていく、明るくなっていくものだと思っていたのだけれど。今の子どもたちはほとんどが未来は良くならない、非常に暗い危機的なものがベースにあるのがすごくショックでした。やっぱり何とかしなきゃいけないという気持ちになったので、子どもたちが未来についてどう考えているかを直に聞けたのはすごく良かったなと思っています。2030年、50年までのビジョンや長期目標を決めようとなった時に、一番突き当たったのが環境問題です。ステークホルダーとして、お客さまとお取引先さま、株主・投資家、社員、地域・社会、この5つまではすっと出てくるのですが、例えば環境とか地球がステークホルダーというのは、何かしっくりこなかったのです。その時にピンと来たのが、バックミンスター・フラー*が言っている「富とは私たちが将来世代に残せる『未来の日数』のことである」というセリフです。ああ、そうか、将来世代、子どもたちがそのステークホルダーになることが環境やサステナビリティの取り組みを進める原動力になるのではないかと。環境問題やサステナビリティのステークホルダーは将来世代なんだと、ストンと腑に落ちたのです。それで6番目のステークホルダーに将来世代を据えて、この人たちと一緒にビジネスをやっていく、価値を創っていくのが我々のサステナビリティの構築だとなりました。そういうことを考えていたところに永田さんがCFOを募集していると聞いて、経営者として1本取られたというか、すごくうれしかったです。そういうことをやる人がいるのだと、そういうやり方があるのだと。

永田:私は、最初は子ども株主みたいなものをやりたかったんです。つまり、会社は誰のものか、もう次世代だと決めてしまおうと思いました。株式を分割して子どもが100円で買えるようにしようと考えたのですが、金融商品取引法に引っ掛かるのでできなかった。じゃあ、次にどうするか。直接的につながりやすいステークホルダーが、資本、経営者、従業員だとすると、経営者ならばCFOというふうに考えを柔軟に発展させていったんです。

社会課題への挑戦が報酬

青井:僕は年齢的なこともあるけれど、格好つけた言い方をすると、経営やビジネスに取り組む最大のモチベーションは自分のためではないのです。将来世代の子たちが大きくなった時にこうであってほしい世の中にどれだけ近づけられるか、そこが最大のモチベーションです。

永田:役員報酬が2倍になっても、たぶん生活は何も変わらないと思います。であれば、私はユーグレナで経営をやらせてもらっている限り、社会を良い方向に変えていき、株主や会社の仲間、顧客に「いいね!」と言ってもらえるほうがありがたいです。自分にお金が残るよりも、社会の課題と戦い続けられること、そのやりがいこそが報酬だと思います。

* 『宇宙船地球号操縦マニュアル』などの著書で知られる米国の思想家

(出典:『日経ESG』7月号)

永田 暁彦
株式会社ユーグレナ 取締役副社長 ヘルスケアカンパニー長慶応義塾大学商学部卒。独立系プライベート・エクイティファンドを経て、2008年にユーグレナの取締役に就任。事業戦略、M&A(合併・買収)、資金調達、資本提携、広報・IR、管理部門を管轄。2020年5月から、副社長 COO(最高執行責任者)兼ヘルスケアカンパニー長として食品から燃料、研究開発などすべての事業執行を務める。日本最大級の技術系VC(ベンチャーキャピタル) リアルテックファンド代表。
青井 浩
株式会社丸井グループ 代表取締役社長 代表執行役員 CEO 丸井グループ創業家に生まれ、1986年当社入社、2005年より代表取締役社長に就任。ステークホルダーとの共創を通じ、すべての人が「しあわせ」を感じられるインクルーシブで豊かな社会の実現をめざす。
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