この指とーまれ! by MARUI GROUP

Talk Forum
2020.12.10

エコシステムとしてのD2Cの可能性

  • 加藤 浩嗣
    株式会社丸井グループ
    取締役 常務執行役員 CFO
    D2C&Co.(ディーツーシーアンドカンパニー)株式会社
    代表取締役社長
  • 森 雄一郎
    株式会社FABRIC TOKYO
    代表取締役社長


小売業者などを介さず、自社ECサイトやSNSを通じて消費者とブランドが直接つながる新しいビジネスモデル、D2C(Direct to Consumer)。丸井グループは2020年、D2Cスタートアップ企業をサポートするD2C&Co.(株)を設立し、D2Cエコシステムの発展をめざしています。D2Cブランドを運営し、マルイにリアル店舗を出店する森氏と当社加藤が、エコシステムとしてのD2Cの可能性を探ります。

ECサイトを運営しているだけでは、砂漠の真ん中にお店を構えるようなもの

加藤:私が初めて森さんとお会いしたのは3年くらい前でしたね。オフィスにうかがった際、皆さんがすごく楽しそうに仕事をされていたのが印象的でした。しかし具体的な仕事の話になると、画面を使ってデータドリブンな解説をしていただき、「これがスタートアップ企業なのか!」とすごく驚き、感動した覚えがあります。そもそも、森さんが起業しようと思ったきっかけは何だったのでしょうか。

森:もともとファッションがすごく好きで、大学時代にはファッションメディアを立ち上げたり、パリやミラノにコレクションを見に行っていました。自分が好きなコーディネイトやアイテムを身につけると、「毎日を前向きに過ごせる」力がファッションにはあります。ただ、大学卒業後にファッションの仕事に携わって感じたのが、ファッション業界は過去の成功事例にとらわれていてアナログだということです。新しいことを提案するのがファッションだと思っていたので失望しました。そんな時に輝いて見えたのがIT業界やベンチャー業界、スタートアップ企業です。不動産業界のベンチャーやメルカリの創業期に参画し、自分にはスタートアップ的な経営が合っていると思った一方で、ずっとファッションが心残りでした。

加藤:当社もバブルのころはファッション中心のビジネスで、当時は非常に人気でしたが、その後長期間低迷が続いたのは、過去の成功体験が影響したと思います。お客さまアンケートでは「丸井は服ばかり並んでいて気持ちが悪くなる」「接客が怖い」という声もいただきました。

森:父が人生で最初にスーツを買ったのが丸井さんだったみたいで、私も「ファッションの丸井」という印象はずっとありました。D2Cが今は非常に注目されていますが、モノに対する評価よりも、モノの周辺にあるブランドの世界観や購入体験、顧客を巻き込んだコミュニティが総合的に評価されてブランドが成り立っていると思います。私は、自分の大好きなファッションとITを掛け合わせた事業モデルとして、D2Cのファッションブランドを始めました。

加藤:従来小売に携わっている人は売上目標の意識が高いため、お客さまとは「一期一会」の関係になりがちで、なかなかお客さまと長くお付き合いしていく姿勢に切り替わるのが難しいものです。森さんは、お客さまを継続的にフォローしていますよね。きちんと定量分析をすると、出店の価値もまったく違ってくるので非常に驚きました。

森:不動産のベンチャーにいた時、たくさんのお客さんを次々と獲得するよりも、今いるお客さんに長く住み続けていただくと安定した収益につながることがわかったのです。今で言うLTVですね。お客さんが10年、20年と買い続けてくださることが、長期的に我々のブランドを形成していくと思っているので、初期のころからユニット・エコノミクスの考え方を持っていました。

加藤:我々は、店舗を究極的には「売らない店」にしたいと思っていますが、その中核を担うのがFABRIC TOKYOさんのようなD2Cブランドだと考えています。お客さまに直接ネットで販売できるD2Cブランドにとって、リアル店舗はどういう役割なのでしょうか。

森:リアル店舗はブランドの世界観を訴求できる場、体験を届けられる場です。そして、メディアの役割もあります。ECサイトを運営しているだけだと、砂漠の真ん中にお店を構えるようなもので、見つけていただけないのです。お客さんの生活動線上にリアル店舗があることで、見つけていただくきっかけになる。インターネット広告の出稿料も高騰しているため、ネットとリアルをうまく活用することで、集客コストが安くなると考えています。あとは、新たな取り組みをECに実装する前に実験する場としても活用しています。

加藤:インターネットで顧客を獲得したほうが安いだろうと思っている人が多いので、今のお話は驚く人が多いでしょうね。そのようなリアル店舗の価値を理解していただき、どんどん出店していただきたいですね。

img_i004_001.jpg

緊急事態宣言中も売上自体は落ちず、解除後には過去最高のKPIを記録

加藤:私たちはコロナによって店舗を2カ月近く閉めましたが、こんなに長い期間閉店したのは戦争の時以来だったようです。御社はコロナの影響を受けましたか。アメリカではECサイトがこれまでの倍のスピードで成長したという話もありました。

森:我々もリアル店舗を休業せざるをえなかったので、新規のお客さんの獲得はストップしましたが、既存のお客さんがECサイトで購入してくださったので、売上自体は落ちませんでした。D2Cのメリットを強く感じましたね。我々にとっては、採寸データの登録数が最重要の経営指標なのですが、緊急事態宣言の解除により店舗を再スタートした7月の最終週には、過去最高のKPIを記録しました。ビジネススーツはスタンダードな洋服よりもサイズ感が重要なので、オーダーメイドかつECで買えるという選択肢の需要は伸び、多くのお客さんにご来店いただいています。

加藤:それだけFABRIC TOKYOというブランドのファンが多いのだと思います。森さんは、なぜお客さまが自社のファンでいてくださるのだと思いますか。

森:私たちは自分たちの顧客を「ファン」とは言わずに、「ロイヤルカスタマー」と言っています。なぜなら、ファンがずっとファンであり続けるのは難しいからです。そのため、そこに危機感を持ち、お客さんのロイヤル度を可視化しています。また、最も大切にしているのはブランドコンセプト“Fit Your Life”です。体型だけでなく、ライフスタイルにフィットしたいという意味です。このコンセプトはWebサイトや店舗、組織の施策まで全部に紐づいていて、会議でも「それって“Fit Your Life”だっけ」という発言がよく出ています。

お客さまから発注をいただいてからつくるため、オーダーメイド自体がサステナブル

加藤:“Fit Your Life”はパーソナライズにもつながると思いますが、サステナビリティにおいてもパーソナライズは非常に重要だと考えています。アパレル業界には、つくられたモノの半分も売れていないという衝撃的なデータがありますよね。それが大量廃棄につながっています。

森:我々がオーダーメイドで始めた理由の一つはそこにあります。モノづくりの課題をすごく意識していて、“Fit Your Life”の下位概念に「テクノロジー」「サステナビリティ」「トレーサビリティ」を掲げました。日本では年間28万着程度が流通しているのですが、2019年には13万着しか売れていません。そして世界のCO2の10%、汚水の20%はアパレル業界から出ています。地球を汚しながらつくっていて、それを捨てている。我々は発注をいただいてからつくるため、オーダーメイド自体がサステナブルだと認識しています。

加藤:スタートアップ企業は、社会課題を解決するビジネスが多い印象を受けています。そうした問題意識は、経営者の世代が若いという点にも関係しているのでしょうか。

森:それはあると思います。我々の世代は2年か3年ごとに、震災やテロ、リーマンショックなどを経験してきたため、問題意識をすごく抱えていると思います。「3つの円」という話があって、一つは「顧客の価値」、もう一つは「ビジネスの価値」。昔はこの2つの円だったのですが、今は「社会の価値」という3つ目の円が加わったといわれています。この3つの円が重なる部分を事業にするのが、若い起業家の共通認識だと思っています。

加藤:私たちは、すべてのステークホルダーに共通の利益を提供していこうと考えていますが、2019年から将来世代を加え、6つのステークホルダーとしました。将来世代をステークホルダーとしてとらえることで、ビジネスを展開する際に環境や食の問題も考える必要が出てくるので、自然とサステナビリティ経営に向かっていきます。

森:すばらしいですね。サステナブルな電力会社に出資して協業されているのも、そういう文脈ですよね。

img_i004_002.jpg

あらゆる経営リソースが揃って良い事業、良いブランドが育っていく

加藤:D2Cブランドは、ボリューム的にあまり大きくならないのではないかとよくいわれますが、今後D2Cブランドが伸びていくには、どんなことがきっかけになると考えていますか。お客さまの「不」を解消するブランドであれば、伸びていくのでしょうか。

森:D2Cは今、氷山の一角でしかないと思っています。今は本当に黎明期、創生期で、次のステージ、そしてその次のステージもあると考えています。そこをしっかり思い描けているブランドは、一流のトップ企業になると思います。当社の目標は10年以内にアパレルトップ10に入ることですが、私たちは入れると確信しています。伸びるカテゴリーは、洋服や家具や家電、食品や化粧品など、お客さんのライフスタイルを変革するような毎日使うものです。

加藤:アメリカでは若い世代がよくD2Cブランドを使っていますが、日本でもミレニアル世代以下がどんどん使うようになると思っています。若い人の中には、自分でD2Cを起業したいと考えている人も増えているのではないでしょうか。

森:増えていくにはD2Cのエコシステムがすごく大事でしょうね。まずは挑戦する起業家。そこに参画する社員、メンバー。それから協業先の企業。そして、ヒト・モノ・カネ・情報など、あらゆる経営リソースが揃って良い事業、良いブランドが育っていくと思っています。D2C&Co.(株)の活動はエコシステムの一端を担うものですごく貴重ですし、業界をリードしていっていただきたいと率直に思います。

加藤:森さんにもご協力いただきながら、D2Cを組み入れた共創のエコシステムの構築を進めて社会に貢献してきたいと考えています。

森:D2Cブランドは商圏が全国でありグローバルでもあるので、ニッチなブランドであっても世界中に少しずつお客さんがいれば何万人規模にもなりえます。そういう可能性を秘めているのも、D2Cブランドの魅力です。

森 雄一郎
株式会社FABRIC TOKYO 代表取締役社長1986年、岡山県生まれ。大学卒業後、ファッションイベントプロデュース会社「ドラムカン」にてファッションショー、イベント企画・プロデュースに従事。その後、ベンチャー業界へ転向し、不動産ベンチャー「ソーシャルアパートメント」創業期に参画したほか、フリマアプリ「メルカリ」の立ち上げを経て、2014年2月、カスタムオーダーのビジネスウェアブランド「FABRIC TOKYO(旧・LaFabric)」をリリース。“Fit Your Life”をコンセプトに、顧客一人ひとりの体型に合う1着だけでなく、一人ひとりのライフスタイルに合う1着の提供に挑戦中。新宿マルイ本館や神戸マルイなど、リアル店舗を全国に展開。
加藤 浩嗣

株式会社丸井グループ 取締役 常務執行役員 CFO
D2C&Co.(ディーツーシーアンドカンパニー)株式会社 代表取締役社長

この記事に関するTweet

記事一覧

「顔の見える電力™」を通じて、グリーンエコシステムを共に創る
ニューノーマルな環境への取り組みとは。(株)みんな電力 大石社長、学生環境活動家とともに未来を展望します。

「グレート・リセット」―その先の新しい企業、社会のあり方(後編)
これからの企業、社会のあり方について、マイクロファイナンスを手がける慎 泰俊氏とともに考えます。

「グレート・リセット」―その先の新しい企業、社会のあり方(前編)
これからの企業、社会のあり方について、マイクロファイナンスを手がける慎 泰俊氏とともに考えます。

ビーガン王子、再降臨!ビーガンというライフスタイルの可能性とは
サステナブルな社会について、ビーガンという視点から「ビーガン王子」と丸井グループ社員が語り合います。

マイクロファイナンスで「平等」実現へ―技術で利便性と低コストを両立
五常・アンド・カンパニー(株)の慎氏に、社会課題の解決とビジネスの両立について、当社代表の青井がうかがいます。

将来世代と社会を変革する―30年後見据えた経営を
(株)ユーグレナの永田副社長に、高校生をCFO(最高未来責任者)に任命した理由を、当社代表の青井がうかがいます。

技術革新の本質はESGにある
対談後編では、花王(株)の澤田社長がこだわる「本質」とESGとのつながりについて、当社代表の青井がうかがいます。

ESGは事業領域を広げる
対談前編では、花王(株)の澤田社長に、ESGを経営の中心に据えた理由について、当社代表の青井がうかがいます。

ビーガン王子降臨!脱・肉食で広がる豊かな食の世界と地球の未来
「ビーガン王子」と若手社員が食と地球の未来について語りました。

バックミンスター・フラーが"宇宙船地球号"で投げかけた「富」とは?
持続可能な社会の実現に向け、「スモールセルフ」から「ビックセルフ」へ、意識の転換が求められています。

長期投資家 × 社外取締役 新たなビジネスモデルをめぐる初の直接対話
当社のビジネスモデルやそれを担う社員のあり方など、幅広いテーマで対話しています。

しあわせの可視化を通じて、社員の活力、社会全体の活力を高めていく
しあわせを科学する矢野 和男氏と、当社産業医小島 玲子が、ウェルネス経営を語ります。

ビジネスを通じて、ROEとESGの二項対立を越える
会計学の権威、伊藤 邦雄教授が、持続的成長に向けた企業のあるべき姿を示唆します。