対話・対談
2021.4.9

上場企業×スタートアップ企業が共に創る「来るべき未来」

  • 大沢 翔
    株式会社丸井グループ
    経営企画部 新規事業開発担当(2013年入社)
  • 坪田 拓也
    株式会社サムライインキュベート
    Investment Manager Investment Group
  • 佐伯 さやか
    株式会社丸井グループ所属(2006年入社)
    株式会社サムライインキュベート出向中

2月4日(木)に(株)サムライインキュベートと共同開催された「Marui Co-Creation Pitch 2021」では、4社のスタートアップ企業が「優秀賞」に選ばれました。現在、丸井グループとの協業や出資の検討を進めています。丸井グループとスタートアップ企業はこれからどのような未来を共に創っていくのか。その可能性について、ピッチイベントの審査員を務めた(株)サムライインキュベート 坪田氏と、丸井グループ社員2名が語り合います。

目次

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    新規事業立ち上げ支援のルーツは、小学生のころに通ったおもちゃ屋

    大沢:今回は、(株)サムライインキュベート(以下、サムライ)の坪田さんをお招きし、「上場企業×スタートアップ企業の共創」についてお話をうかがいます。2月4日(木)にサムライさまと共同開催したピッチイベント*「Marui Co-Creation Pitch 2021」では、坪田さんに審査員も務めていただきました。まず、御社のご紹介をお願いします。

    坪田:お招きいただきありがとうございます。弊社は、「できるできないでなく、やるかやらないかで世界を変える」をミッションとして掲げ、スタートアップ出資・成長支援を行うベンチャーキャピタル事業と、大手企業のオープンイノベーションをはじめとする事業創造などイノベーション支援事業の二軸で事業を展開しています。現在、国内外のスタートアップ投資先企業は累計200社を超えています。多くの創業間もない企業への投資経験をもとに体系化した事業創造のフレームワークをベースに、アイデア段階から密にコミュニケーションを取りながら、投資や支援を進めています。アドバイスをするだけではなく、私たち自身もしっかりと手足を動かして、伴走することを心がけています。

    佐伯:最近では、投資先企業のオフィスの引っ越しまでお手伝いしているメンバーがいましたね。投資先・支援先企業の方とのコミュニケーションの取り方が、かなり積極的で活発ですよね。

    坪田:そうですね。投資先・支援先の相手をしっかりと理解し、相手側に入り込んで一緒にプロジェクトを進めることを大切にしています。

    佐伯:今回サムライさまに出向させていただいて、皆さんがそういうマインドでスタートアップ企業に伴走されているのが、とても印象的でした。坪田さんは、もともと新規事業の投資・支援に携わりたいと思われていたのですか。

    坪田:そうですね。昔から新規事業の立ち上げには関心がありました。今振り返ってみると、小学生のころにルーツがあることに気がつきました。

    大沢:小学生からですか!どのようなルーツなのでしょうか。

    坪田:私は大阪府出身なのですが、隣町のおもちゃ屋にわざわざ自転車に乗って友だちとよく遊びに行っていました。なぜかというと、そこの店主がとてもおもしろい方だったのです。小学生の私たちに、新商品のパッケージデザインなどのアイデアを募集して、良い案を出した子どもにはおもちゃをくれました。子どもながらに、どんなおもちゃなら買いたくなるか、新しいアイデアを考えることがとても楽しかったという思い出があります。

    佐伯:そこに楽しさを見出す小学生って、なかなかめずらしいですよね。

    坪田:そうかもしれませんね。また、大学生の時は、アルバイトをしていたビルの空いたスペースを使って、大学生向けにコインロッカー事業を始めました。重い教科書を持って移動するのが大変な学生に、少しでも貢献できたらいいなと思ったのがきっかけです。若いころから新しい事業をつくることに関心があったんだと思います。だから、弊社の事業は自分のやりたかったことにすごくマッチしているんです。スタートアップの新規事業の立ち上げ支援や投資ができるというのは、とてもやりがいがあります。

    佐伯:坪田さんはとても多趣味ですが、これもサムライでのお仕事に活かされていますよね。特に音楽などエンタメに関する知見が豊富なので、そのような分野の事業理解が深いなと感じました。エンタメならではの言語化が難しいところもきちんと汲み取り、共感を持って対話をしつつ、事業成長のアドバイスをされています。これは、エンタメに造詣の深い坪田さんならではだと思います。

    坪田:ありがとうございます。私自身は、そんな大それたことだとは思っていません。ただ、いつも新しいことを吸収しようという精神でいると、多様な業界・業種の企業理解が抵抗なくできる気がするんです。弊社では、大手企業とスタートアップ企業をつなげ、協業の実現や新規事業の立ち上げ支援にも注力しています。事業規模や価値観が大きく違う両者のことをしっかりと理解することが、お互いの価値創造につながると思うので、常にそこは意識しています。

    * 新規事業創出をめざすスタートアップ企業が、投資家に対して事業企画をプレゼンすること

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    質疑応答は"殴り合い"、両者の本気度が伝わった熱いピッチ

    大沢:今回の「Marui Co-Creation Pitch 2021」は、サムライさまが出資後の成長支援にも注力されているところが、弊社のオープンイノベーションによる価値創造の考え方と合致し、共同開催にいたりました。

    坪田:そうですね。投資して終わりではなく、その先の成長の後押しが重要だと考えています。今回のイベント開催にあたっては、まず御社がオープンイノベーションで実現させたいことを明確化することから始め、テーマ設定まで落とし込んでいきました。

    佐伯:ピッチイベント参加企業の募集にあたり、上場企業側が協業により何を実現したいかが明確になっていないと、スタートアップ企業側としてもコアに響く提案ができず、協業の実現につながりにくいんですよね。

    大沢:今回の大テーマは、丸井グループのミッションである「すべての人が『しあわせ』を感じられるインクルーシブで豊かな社会を共に創るサービス」でした。そこにひもづく小テーマとして「社会課題の解決」「データ活用」「ファイナンシャル・インクルージョン」を設けましたが、募集時のテーマの抽象度をあえて高くすることで、多様なスタートアップ企業に参加していただきたいという想いがありました。

    坪田:そうですね。「丸井グループとだからこそ、こういうことを実現したい!」という、ほかの企業にはない丸井グループならではの強みやアセットを活かす発想で生まれた、オリジナリティのある協業アイデアが多かったのが印象的でした。

    佐伯:正直、応募締め切り当日まで目標応募社数が集まるかどうかドキドキしていましたが、結果的に35社の企業からご応募いただき、ひと安心しました。丸井グループのインクルージョンやサステナビリティに賛同してくださっている応募企業が多く、協業の実現に期待していただいているのだと実感しました。その後の選考にあたっては、協業してお互いにシナジーが生まれるかどうかを主軸に置き、課題のひっ迫性やニーズの強さ、経営者・起業家としての熱量、スケーラビリティ(事業の成長性)などの軸も踏まえつつ、ピッチにご参加いただく企業を10社選抜しました。イベント当日までは、審査員に皆さんの協業案が的確に伝わるよう、何度かやりとりをしてサポートをさせていただきました。10社すべて、非常に熱量高く準備を進めてくださいました。

    大沢:リアルでイベントを開催できたことも大きかったですね。きちんと新型コロナウイルス感染症対策を講じる必要はありましたが、それだけの価値はありました。

    佐伯:本当にそう思います。ピッチの熱量や迫力と起業家の皆さんの個性が、リアルだからこそグッと伝わってきました。人数を制限しての開催でしたが、会場にいた全員がこの熱量を同じ時間・同じ場所で体験できたのは、とても有意義でした。審査員として参加した弊社社長の青井のメッセージも、直接対面だからこそより熱意が伝わり、丸井グループとスタートアップ企業両者がお互いの熱い想いを体感できたのではないかと思います。

    坪田:青井社長をはじめ、審査員勢からも本気度が伝わってきましたね。質疑応答では、審査員から続々と出てくる鋭い質問に、スタートアップ企業が食らいつくように答えていて、本気の殴り合いのようでした(笑)。

    佐伯:提案サービスにかかるコストやどのような商品をどのくらいの規模で販売するのかなど、具体的な質問が多かったですよね。それだけお互いに本気で協業のパートナーを求めているのだと感じました。

    坪田:審査会も時間をオーバーするくらい白熱しました。一社ごとに議論が盛り上がりましたね。

    大沢:そうですね。審査会ではサムライさまから弊社とは違う視点で、各社との協業の可能性についてお話しいただきました。例えば、エリー(株)さま(昆虫の「蚕」を原料としたシルクフード)は、今まで弊社では取り組んでこなかったビジネスでしたが、今回優秀賞とさせていただきました。

    佐伯:(株)シェアウィングさまはWell-beingを実現させるプロジェクト、(株)DATAFLUCTさまはフィンテックに特化したプロジェクトで、それぞれ丸井グループがめざすビジョンや世界観と合致しており、審査員の心をつかんでいましたね。

    大沢:優秀賞とオーディエンス賞(丸井グループ社員約300人の投票により決定)をダブルで受賞した(株)ヘラルボニーさまはどうでしょう。

    坪田:協業アイデアが御社のめざすインクルージョンにとても近く、納得の受賞でしたね。ピッチもとにかくうまく、惹き込まれました!

    佐伯:四者四様の良さがありましたね。

    大沢:優秀賞を受賞した4社との取り組みの進め方についても、画一的ではなく、各社と対話しながら、まさに四者四様といったように最適な方法で進めていきます。まだアクション前の準備段階ではありますが、イベント終了後もそれぞれと密なコミュニケーションを取っています。

    佐伯:やって終わりではなく、着実に実行に移していくことが大切です。

    坪田:イベント当日に経営トップ自ら審査員として参画されたことで、御社の本気度はスタートアップ企業に十分伝わっていると思いますよ。実際に、受賞企業がSNSやプレスリリースで受賞報告をされていますし、それはイベントを良いものだと思っていないとできないことだと思います。

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    上場企業とスタートアップ企業の協業は、「来るべき未来」を実現可能にする

    大沢:今後、協業や出資を検討していくにあたり、上場企業とスタートアップ企業の協業における課題を教えていただきたいです。

    坪田:一つは、時間軸ですね。ありがちなのが、こういったイベントを開催してもそこから何も進まず時間だけが経過してしまうことです。大手企業とスタートアップ企業の時間軸は違うので、事業化や収益化に向けた中長期的なプロジェクトでは、マイルストーンを設置して着実に進めていかないといけません。もう一つは、大手企業のアセットがオープンになっているかどうかです。スタートアップ企業は大手企業の豊富なアセットを使えると期待していたのに、蓋を開けてみると外部からはアクセスできないというケースがあります。こうなってしまうと、なかなか身動きが取れなくなってしまうんですよね。大手企業はオープンイノベーションに使えるように、アセットの構造設計を一つひとつ変えていく取り組みをすべきだと考えています。

    大沢:やはり大企業体質というか、スピード感が遅いという点はありますよね。これは私たちにとっても大きな課題です。

    佐伯:そうですね。坪田さんもおっしゃっていたように、上場企業とスタートアップ企業では時間軸や価値観など違うところが多いと思います。そのため、それをお互いに理解してフラットな関係性を築き、ともに協業アイデアを考えていける人材を今後増やしていくことが必要だと考えています。現在、丸井グループでは、共創投資先ごとに社内で「共創チーム」をつくり、スピード感をもって協業を推進しようとしています。ただ、スタートアップ企業とプロジェクトを進めた経験のある人材はまだ少ないので、まずは今回のようなピッチイベントを定着させ、もっと社員を巻き込んでいける風土をつくっていきたいと思っています。

    大沢:今回のピッチイベントに参加した社員からは、「この協業アイデアに携わりたい!」という積極的な声もすでに上がっていますよね。

    佐伯:はい。丸井グループのアセットは小売・フィンテックだけではなく、物流やシステムなど多岐にわたります。スタートアップ企業に向けて、もっとわかりやすくオープンにできる仕組みもつくれると良いなと思っています。

    坪田:その仕組みをつくれるスタートアップ企業を募集しましょうか!(笑)

    大沢:次回の「Marui Co-Creation Pitch 2022」でぜひ!(笑)

    坪田:御社は、売らない小売の先駆けであったり、クレジットカードを日本で最初に発行したりするなど、意志を持って最前線を走り続けている企業です。一般的な大手企業とは、やはり少し違うと私は感じています。なので、そのアセットの仕組み化や人材育成をきっと実現してくださると期待しています。

    大沢:ありがとうございます。その期待に応えられるようアクションを起こしていきたいですね。

    坪田:ぜひお願いします。オープンイノベーションの醍醐味は「来(きた)るべき未来」を実現することだと思うのです。例えば、昆虫食も今すぐ食べなければならないかと問われれば、たぶんそうではない。しかし、環境保護の視点などから、代替たんぱく質をいつかは生活に取り入れなければならないという世界的なシナリオがあります。その、いつ来るかわからない「来るべき未来」へ、大手企業の影響力・アセットとスタートアップ企業の技術・スピードが協業することで、一気に加速するのです。これこそが、大手企業とスタートアップ企業のオープンイノベーションによって、共に創ることができる未来だと思います。

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    坪田 拓也

    株式会社サムライインキュベート Investment Manager Investment Group1989年大阪府出身、京都大学卒業。デジタルマーケティング企業にてWebマーケティングや新規商材企画を経験後、グループ会社で複数サービスの事業責任者等を経験。2017年に株式会社サムライインキュベート入社。大手企業の事業立ち上げ支援に従事した後、投資先の事業支援・スタートアップへの新規投資を担う。2月4日(木)に丸井グループとサムライインキュベートが共催した「Marui Co-Creation Pitch 2021」では審査員を務める。

    佐伯 さやか

    株式会社丸井グループ所属(2006年入社)
    2019年5月から株式会社サムライインキュベートに出向アフリカビジネスに興味を持ち、社内公募で手を挙げ、2019年5月から出向。株式会社サムライインキュベートの投資チームに所属し、投資先候補となるスタートアップの発掘や事業創出のサポートを担当。「Marui Co-Creation Pitch 2021」では企画段階からかかわり、当日は司会も行う。

    大沢 翔

    株式会社丸井グループ 経営企画部 新規事業開発担当(2013年入社)入社時は、マルイファミリー溝口で婦人靴の販売を経験。その後本社へ異動し、自主事業における営業計数の予実管理や小売事業の事業戦略立案などに携わり、2021年10月より現職。「Marui Co-Creation Pitch 2021」では企画段階からかかわる。

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