対話・対談
2022.6.27

自律的で個性が大切な時代に向けたソーシャルメディアの使い方

丸井グループでは、今後の経営にとって重要となるさまざまなテーマを考える場として「中期経営推進会議」をほぼ毎月開催しています。 今回は、2022年5月に「自律的で個性が大切な時代に向けたソーシャルメディアの使い方」というテーマで行われた、株式会社ガイアックスの代表(兼 取締役)を務める上田 祐司氏の講演の内容をお伝えします。

目次

    「人と人をつなぐ」をミッションに掲げ、ソーシャルメディア領域に事業を展開するガイアックスを創業した上田氏。インターネットが登場して、ソーシャルメディアを活用することで「つながる社会」が実現できるようになりました。このような中で、私たち一人ひとりがソーシャルメディアを活用しながら、「サービス」や「組織」、最後はどのように「人生」を考えていけば良いのかということについて、お話しいただきました。

    POINT

    ・資本主義の根本は「感情」である
    ・日本は、まだまだソーシャルメディアを活用しきれていない
    ・ソーシャルメディアを活用することで自分の人生のライフプランを見通していく

    ソーシャルメディアが資本主義の次の世代をつくる

    はじめに、「サービス」はどうあるべきかについてお話しします。インターネットが波及する前の時代を知らない方もいると思うのですが、以前は、店やホテルを選ぶのも、広告を見て選んでいました。ところが、ソーシャルメディアの普及により、お客さま自身で口コミが書き込め、お客さま同士で情報交換ができるようになり、それによって、お店側も口コミを参考に経営ができるようになりました。こういった世の中においてのボスはいうまでもなく、お客さまや利用者だと思います。お客さまや利用者を中心にしたサービスの提供が、発展途中ではありますがソーシャルメディアの普及で顕著になってきました。

    あらためて、世の中の仕組みを深いところから解き明かしていきたいと思います。まず私たちは一人で生活しているわけではありません。多くの人と集団で生活しています。その方がしあわせで効率的だと思います。集団で生活する時に一番良いコミュニケーションは、家族のように対面で話すことです。日ごろから対面でコミュニケーションすることで、相手に感情移入し、その相手のことが大切な存在になります。ただ、対面のコミュニケーションは、1億人や10億人の規模ではできません。そこで人類が編み出した天才的な手法が、資本主義社会です。資本主義社会は、デジタル的な印象があるかもしれませんが、根本は感情がベースとなっています。「りんごがほしい」といった「感情」を「数字」に置き替えたことで、りんごが流通するようになったのです。資本主義社会は、世界中の人が欲していることが最大限満たされるように、リソースが瞬時に組み替わりながら最大公約を提供するようになった、すばらしいシステムだと思います。

    しかし、一方でさまざまな問題点も含んでいます。一つ目が、世界中のしあわせのために世界が動くのであれば問題ないのですが、実際は一握りのお金持ちのために世の中が動いてしまいます。二つ目は、しあわせのためにお金持ちになろうとし過ぎることです。つまり売上や利益を上げようとして、欲しくないと思っている人にまで商品やサービスを押し付ける形になっています。そこで、私自身は、資本主義社会の次の世界をつくるために一番重要なのは、ソーシャルメディアだと思っています。「感情」を「数字」に置き換えて流通させることで、余計な判断材料がついてきてしまうのですが、初めから「感情」を「感情」のままたくさんの人に共有ができたら、利益や売上以外の判断が正しくでき、皆がハッピーになる社会が動いていくと考えます。正直、今ソーシャルメディアがまともに使われていないと思う時があります。これはどういうことかというと、Web的にサービスが腐っていて、Web上でサービスがうまく機能していないことです。またSNSを見ても、同様のことを感じていて、知りたい情報があるのにSNSが活用されていません。例えば、プレスリリース=取り扱い説明書にしかなっておらず、もっとSNSを使って情報だけではなく、担当者やメンバーの想いを伝えるべきだと思います。

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    シェアリングエコノミーについて、少しお話しさせていただきます。私は、シェアリングエコノミー協会の代表理事も務めさせていただいるのですが、海外に行った時は、ミールシェア*のサービスをよく使います。このサービスは、目の前で料理を提供してもらえるだけではなく、サービスを提供する側のシェフといろいろな会話が生まれます。アメリカでサービスを提供してくれたシェフの方は、レストランで働いていた時は、お客さまの顔が見えなかったし、自分から顔を出しづらかったが、このサービスを始めたら、自分が仕事がしたい時にできる自由さだけではなく、自分のやりたいようにでき、それをお客さんが目の前で喜んでくれることがすごく良いと言ってました。

    *ミールシェア:旅行者を手料理でもてなしたい人(=ホスト)と、旅先で暮らす人の自宅で食事をしたい人(=ゲスト)をつなぐサービス

    ソーシャルメディアやシェアリングエコノミーの話を聞いて、皆さんがこれからの「サービス」はどうあるべきかと考えた時に、要は自分の人となりを出すということで、それは、「結構リスクがあるのではないか?」「会社として、マネジメントできるのか」と思ったかもしれません。けれども、私としては、働いている人に悪い人はいないので、大丈夫だと思います。大概皆良い人です。むしろ、その良い人たちが良い人らしさを出す方が、お客さまは満足すると思っています。

    DAO*(Decentralized Autonomous Organization)についてもお話しさせていただきます。これまでは広告があり、口コミに代替されて、お客さまの反応がサービスの提供者に届いていました。これに対して、新しく「DAO」というものが登場してきているのですが、その特徴の一つが口コミを発するだけではなく、サービスの権利の一部をお客さまが持っているという点です。シェアハウスで例えると、このシェアハウスにクーラーをつけるかどうかは、オーナーが決めるのではなく、参加者の住人の自分たちが決められるといったことであり、このような組織やコミュニティがDAOと言われているのですが、このように時代は変わってきています。

    *DAO(Decentralized Autonomous Organization):自律分散型組織・管理者が存在せず、メンバーが共同所有を行うような組織。

    次に「組織」についてです。ソーシャルメディアを活用していくと「組織」はどうなっていくのか、ということをお話します。私が代表を務めているガイアックスでは、さまざまなソーシャルメディアを活用していますが、そうするとガイアックスで働いている社員は、「ガイアックスに属している『私』」ではなく、「社会に属している『私』が、偶然ガイアックスを選んだ」という考えになっていきます。ただ、まだまだそういったフラットな考えにはいたっていないこともあり、ソーシャルメディアを使ったオープンでフラットな組織づくりを強化していこうとしています。その中の一つの取り組みとして、ガイアックスの新入社員には、日報をYouTubeでつくってもらっています。ある一人の社員は、日報の中で「ついでに」という軽い感じで自分のメイクのこだわりについても発信しています。これは彼らが何をするにもソーシャルメディアで発信することのが当たり前といった文化の中で育ってきた最たる例だと思います。これを見るともっと仕事の仕方も崩していかなければならないと思っています。

    また、以前はガイアックスでも「仕事をデスクだけでするのではなく、イントラでしなさい」ということが言われたのですが、今は「イントラで仕事をしないで、もっとオープンに仕事をするように」と風通しを良くするように取り組んでいます。社外に向けてもオープンに情報を発信していくことで、組織の中でのタブーをつくらなったり、変な言葉を使わなくなったりと、オープンでフラットな組織となっていくのです。

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    ソーシャルメディアを活用することは、ライフプランを見直すこと

    最後に「人生」はどうあるべきかについてお話させていただきます。ソーシャルメディアを活用するということは、ソーシャルメディアの中で何かを言わなければなりません。つまり、皆さんが自分自身の言いたいことや、自分自身が大切にしていることを見直さないといけません。その中一つがライフプランだと思います。ライフプランを見つめるうえで、自分が大切にしていること、人生で成し遂げたいこと、自分が言いたいことが見えてくると思います。私からすると、ソーシャルメディアで何も発信しないというのは、自分を表現していない、まるで白衣を着て、マスクをして、サングラスをして、毎日外を歩いているようなものです。皆さんもぜひこの講演をきっかけに自分の人生を考えながら、ソーシャルメディアを活用し、物事を考えていただければと思います。

    登壇者プロフィール
    上田 祐司氏
    株式会社ガイアックス 代表(兼 取締役)

    1997年、同志社大学経済学部卒業後に起業を志し、ベンチャー支援を事業内容とする会社に入社。一年半後、同社を退社。1999年、24歳で株式会社ガイアックスを設立する。30歳で株式を公開。一般社団法人シェアリングエコノミー協会代表理事を務める。

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