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「良くある、良く居る」ことを意味するWell-being(ウェルビーイング)。コロナ禍により、私たちが従来の価値観の見直しを迫られる中、重要なキーワードとして注目されています。2020年7月、当社のアドバイザーに就任した、Well-being研究の第一人者である石川 善樹氏と当社の青井、小島が、新たな時代の「しあわせ」のつくり方を語り合います。
青井:石川さんは、「人が良く生きる(Well-being)とは何か」をテーマとして、企業や大学と学際的研究を行われていますよね。もともとは、予防医学研究を始められて、今は「Well-being」や「しあわせ」について追究されています。そうなったきっかけを教えていただけますか。
石川:予防医学を始めたのは父の影響です。父は、医者のいないへき地に行って医療をする人材を専門的に育てる自治医科大学の1期生でした。最初は、瀬戸内海に浮かぶ広島県の生口(いくち)島に医者として着任しました。医者の仕事は診断と治療なのですが、やはり大切なのは話すことなんですよね。しかし、医者と住民には心理的な距離があり、なかなかコミュニケーションをうまくとることができず、父の場合は、自分の白衣を患者さんに着せてみたり、ギターを弾いて聞かせてみたり、いろいろと試行錯誤したそうです。その後も父は、へき地と市街地を行き来していたのですが、市中病院に入院している子どもたちに「せっかく入院したのだから、勉強だけはできるようになって帰ってほしい」と勉強を教えたり、熱心に教えすぎて看護師長に叱られたり。とにかく僕の父は自由でおもしろい人なのです。
小島:私も存じ上げているのですが、すごい方です。お父さまが講師をされた研修に参加しましたが、コミュニケーションの達人ですね。
石川:父が患者さんのお宅へ訪問した時の話もたくさん聞きました。例えば、父が患者のおばあさんに「最近どうですか」と聞くと「もう死にたいです」と返ってくる。父が「そんなことないでしょう」と言うと、看護師長が「死にたい、と言っているのを、まずはそうですか、と一回受け止めなさい」と父を叱ったそうです。一度受け止めてから、「最期はどういう風に死にたいですか」「それまではどのように生きたいですか」と聞いていくと、患者さんは「死んでいる場合じゃない。まだまだやりたいことがたくさんある」と気づいて、だんだんと前向きになっていくのです。父はそこで、病気の治療だけでなく、元気を増やすことにもすごく興味を持ちました。そのため、病院にいるだけではなく、ホテルやアパレルと組んでいろいろな取り組みを始めました。このような父の影響で、予防医学とは、医療分野だけにとどまらず、多様な分野の方たちと組んで人を元気にしていくことだと思えたのです。
青井:なるほど。そういう背景があったのですね。
石川:しかし、なかなかそういった事業とコラボするのは難しいんですよ。僕がこの医療という世界に入った当初は、高齢者の方に向けた健康教室を全国各地で開いていました。今でも忘れられないのは、北海道増毛(ましけ)町で行った健康教室での初めての出来事です。僕が千歳空港から増毛町に電車で着いた瞬間から、「本日は石川先生がいらっしゃいました」という町内放送が流れるんですよ。
青井:それは熱烈な歓迎ですね。
石川:そうなんです。平均年齢80代の方たちを相手に、若い私にできることなどあるのだろうかと思いましたが、行政の方に、「東京から先生のような若い人が来たというだけで、皆さん元気になるんです!」と力強く言われました。健康教室で「せっかく来たからには、できることは何でもしたい」と高齢者の方たちに要望を聞くと、「触りたい」と言われたのです。
青井・小島:え!?石川先生を、ですか?
石川:そうです(笑)。「じゃあ触ってください」と声をかけると、必ず触られるのがお尻でした。なぜだかわからないのですが、全国どこに行ってもお尻を触られました。それで元気になるんだったら、まぁいいかと。
一同:(笑)。
石川:こんな感じで、僕はとにかく元気を増やそうという想いで20代を過ごしていました。この時は、まだWell-beingまでは考えがいたっていませんでした。ただ、姿勢を正しましょうとか睡眠を十分とりましょうとか、当たり前のことを言っていましたね。小島先生も最初はここから始められたと思います。
小島:万人にわかりやすい内容ですからね。
石川:30代に入ってから、働く人の元気について考え始めて、今までやっていたことだけでは足りないと気づきました。まずは経営がうまくいっていることが働く人にとっての健康づくりの基本のキだなと思い始めてから、予防医学の仕事が楽しくなりました。今思うと、20代のころに意識していた元気を増やすということが、「より良く生きる=Well-being」につながっているんだと思います。
石川:これまでのWell-being研究における最大の発見は、しあわせに影響する要因として、自分の前に選択肢があり、それを自己決定できている状態が非常に重要だということです。ここで大切なのは、選択肢を増やすためのベースがしっかりしていることです。船で言えば母港です。母港があるからこそ、どこに旅立っても安心して帰ることができますよね。丸井グループがやっていることは、この母港をしっかりさせることだと思います。つまり、人の生活のベースとなる衣食住を担保している。それがあるから人は人生を自由に旅することができます。人が生きるには「ベース(母港)」と「選択肢」の両方が必要です。丸井グループは、この両輪を担っていく会社になると思っています。
青井:僕も一人ひとりが自分の人生を生きられるような選択肢を提供できるかどうかが大事だと考えています。昔は、提供する側が決めていた価値を消費者が受け入れていましたが、今のミレニアル世代や若い世代は、彼ら自身で価値を決めるようになりました。人に決められた人生ではなく、自己決定できるような人生にするために何ができるのかが大切なのです。
小島:選択肢を増やす一方で、ベースが必要というお話はおもしろいですね。丸井グループでは、社員の手挙げ式のプロジェクトにおいて、社員の案によって生活のベースからパーパスを考えようという会ができました。ほかにも、「(グループ本社がある)中野エリアを元気にしたい」といったアイデアが出てきます。丸井グループは基礎となる生活のベースがしっかりとあって、選択肢を増やそうとしている会社なのかなと思います。
石川:自分の経験に基づいてアイデアを出しているから、中野周辺に関するものが多いのでしょうね。逆に言えば、自分が経験したことでないと本気で打ち込めないと思います。経験が増えれば、もっと多様なアイデアも出てくるでしょうね。
青井:Well-beingは健康から生まれた概念だと思いますが、今やものすごく広く深い意味を持ち始めていますよね。私たちの世代にとっても、世界の見方や人生観が変わるような流れになっているように感じます。特にコロナ禍がそれを加速していると思いますが。
石川:少し別の言い方をすると、時代に参加したいのか、歴史に参加したいのかという違いがあると思います。前者は「時代の寵児」とか「今」のトレンドに乗っているということですよね。でもこれだけ情報化社会になると、このような瞬間芸ではなく、歴史の大きな流れに身を寄せたいという気持ちが芽生えて、文化やサステナビリティに興味を持つなど、歴史に参加しようと考える人がどんどん増えている気がします。
青井:ミレニアル世代や若い世代は、短い時間軸で何かを追いかけていくことに対する虚しさを感じているのかもしれませんね。そうではなくて、歴史のような長い時間軸における自己実現に価値を見出し始めたように思います。
石川:この価値観の変化は、若い人と話してみないと気づきにくいです。自分に近い世代と話していても気がつかない。若い世代と話してみると、自分さえ良ければ良い、というマインドを持った人が少なくて驚きます。
石川:新型コロナウイルス感染症によって社会全体がスローダウンしていますが、そのツケを払うのは将来世代などの次世代の人たちですよね。今の状況は彼らに大きい負担を強いている。丸井グループにとっても、どのようなニューノーマルを構築していけるかが問われていると思います。その仕組みづくりには、企業の創業者を見るより、創業者が見ていたものを見ることが大事です。丸井の創業者は、普通に暮らしている普通の人たちの生活をきちんと見ていたと思います。その中で必要なものを大胆な発想で提供したのでしょう。
青井:スティーブ・ジョブズ氏は、普通の人の暮らしをよく見ていて、その人たちが何を求めているのかを考えた。それが自分のやりたいことと同じで、結果として皆を喜ばせることができた。そう僕は思うんですよね。
石川:ジョブズ氏は、すべての人にクリエイティビティを与える「クリエイティビティの民主化」をしましたよね。
青井:創業者は「信用はお客さまと共につくるもの」と言っていて、当社ではこれを「信用の共創」と呼んでいます。僕たちは「信用の共創」を通じて「信用の民主化」をしていると思っています。信用はお金持ちに限られたものではなく、誰にでもつくれるものなのです。
小島:確かにそうですね。
石川:普通の人の暮らしを見るというのは、一番難しいです。どうしても弱い立場にある人や派手な暮らしをしている人など、極端な方が目に入ってきやすいので。でも、丸井グループは普通の人の暮らしを見ることを創業当時からずっと続けてきています。それがすばらしいと思います。
小島:丸井グループは、「信用はお客さまと共につくるもの」という創業の精神をつないで新しい活動に取り組み続けています。
石川:人生百年が安心・安全だと思えるベースと、いろいろなチャレンジを可能にする選択肢のどちらも提供できる仕組みが、歴史の中で自然とできているということですよね。
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医学博士/公益財団法人Well-being for Planet Earth 代表理事
株式会社丸井グループ アドバイザー1981年、広島県生まれ。予防医学研究社、博士(医学)。東京大学医学部健康科学・看護学科卒業。ハーバード大学公衆衛生大学院修了後、自治医科大学で博士号取得。公益財団法人Well-being for Planet Earth 代表理事。「人が良く生きるとは何か」をテーマとして、企業や大学とさまざまなプロジェクトを行う。専門は、予防医学、行動科学、計算創造学、概念工学など。著書に『フルライフ』(NewsPicksパブリッシング)など。
株式会社丸井グループ 代表取締役社長 代表執行役員 CEO1986年当社入社、2005年4月より代表取締役社長に就任。創業以来の小売・金融一体の独自のビジネスモデルをベースに、ターゲット戦略の見直しや、ハウスカードから汎用カードへの転換、SC・定借化の推進など、さまざまな革新を進める。ステークホルダーとの共創を通じ、すべての人が「しあわせ」を感じられるインクルーシブで豊かな社会の実現をめざす。2019年3月より男女共同参画会議 議員、2020年10月より世界経済フォーラム Global Future Council On Japan メンバー。
株式会社丸井グループ 執行役員 ウェルネス推進部長 兼 専属産業医医師、医学博士。大手メーカーの専属産業医を約10年間務める傍ら、総合病院の心療内科にて定期外来診療を担当。2006年より北里大学大学院の産業精神保健学教室に在籍し、2010年、医学博士号を取得。翌年に丸井グループ専属産業医となり、2014年、健康推進部の新設にともなって部長に就任。2019年、執行役員に就任。著書に『産業保健活動事典』(共著、バイオコミュニケーションズ)、『改訂 職場面接ストラテジー』(共著、バイオコミュニケーションズ)など。
Withコロナの時代こそWell-beingが「しあわせ」をつくる(前編)―新しいしあわせの価値観について、Well-being研究の第一人者である石川善樹さん(@ishikun3)とともに、当社代表の青井、小島が思考を巡らせます。#ウェルビーイング #選択肢 https://t.co/x67PvSopJ0
— この指とーまれ! (@maruigroup) 2021年2月11日
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